このコラムでは、しばらくベタの話題ばかりだったので、ちょっと趣向を変えて今回はカニの話題をお届けしよう。
このコラムの読者ならご存知かと思われるが、東南アジアの淡水魚の他に自分の興味は淡水の甲殻類である。
昔はその中でも淡水のテナガエビやヌマエビがメインだったのであるが、ここタイを起点にフィールドワークをするようになってから、サワガニ類やヤマガ二類、タガニなどの淡水性のカニの仲間にも非常に興味が湧いて来て、観察や撮影の対象となっている。日本の本州では、サワガニとモクズガニぐらいしか淡水域ではカニの仲間が見られない。
もっと多くの種類を観察しようとしたら、九州から沖縄まで足を伸ばす必要がある。琉球列島まで行けば、多種多様なサワガニ類の姿を見ることができる。
ただし、この琉球列島のカニ達は、生息する島ごとに細かく種類が分化しており、非常に貴重な存在である。両側回遊のエビなどと異なり、大卵型で幼生が海に下らないサワガニ類は、生息場所が開発などの影響でなくなったら、種が途絶えてしまうのである。
そのためにほとんどの種類が、現在では絶滅危惧種扱いとなっているので、ペットとしての飼育はあまりお勧め出来ない。
2017年に改正された種の保存法では、ヒメユリサワガニ、カクレサワガニ、ミヤコサワガニ、トカシキオオサワガニなどが指定され、これらの種類は採集や売買、譲渡などが禁止されているので注意して頂きたい。
と言うように現実問題では、琉球列島産のサワガニ類は現実的には飼育が難しい。
淡水産のカニを飼育してみたいと考えた場合、代わりと言っては言い方がおかしいが、ペットとして合法的に輸入された外国産のカニ類を飼育するのがお勧めである。
最近では、タイやラオス、ベトナム、中国南部から魅力的なカニが数多く輸入されるようになっている。
こうした外国産のカニの方が色彩的にもカラフルなので、観賞用としては適していると思われる。
今、自分のいるバンコクにも、先日ベトナムから魅力的なカニが数種類輸入されて来たので、今回はそのカニ達を紹介しよう。
まずは脚の長いヒメユリサワガニによく似た体型の種類が2種類。
商品名はなかったのだが、便宜上ロングアーム・マウンテンクラブと呼ぶ事にする。
一種類は、黒っぽい体色に、赤いハサミ、歩脚の節が赤く色付き、非常に美しく魅力たっぷりである。
眼窩の縁が赤く染まっているのも可愛い。
もう一種類は、体型的には前種と良く似ているのだが、体色は青白く全く異なっている。
色彩以外、体型などは非常によく似ているので、この事なる体色の2種類はもしかすると地域変異や個体変異の可能性もある。
自分が良くヤマガニを観察に行くタイ西部、タイとミャンマーの国境付近では、同種なのだが体色が全く事なる種類もいくつか観察している。
あと2種類は、特徴的なハサミの形態が同じなどで、これも同種の可能性が高い。
鮮やかな赤い体色をした種類とオレンジ色の2種類である。
この種類は、アップルマンゴー・クラブの商品名で以前日本にも入荷した事もあるようだが、ベトナミーズフッククロー・マウンテンクラブとしておこう。
この種類は、オスのハサミが片側だけ大きく発達し、大きく湾曲しているのが特徴である。
今回紹介している4種類は、いずれもサワガニと言うよりは、陸上での生活に特化したヤマガニの仲間だと思われる。
特に脚の長いロングアーム・マウンテンクラブは、日本産の本家ヒメユリサワガニが飼育できなくなった現在では、カニ・マニアの心を掴みそうな気もする。
どの種類も、陸場をメインとしたテラリウムでの飼育がお勧めである。
飼育の際は、体全体が浸かるような水場をケースの中に用意してやればいいだろう。
こうしたヤマガニ類は、夜間はアグレッシブに行動するので、飼育ケースから逃げられないように蓋は頑丈な物を用意しておいた方がいい。
自分などは、何度逃げたカニが夜中に部屋に逃げ出し、捕まえるのに苦労したかわからない(笑)。
餌は魚用の人工飼料などもよく食べる雑食性である。
大陸産の種類は、琉球列島の種類のように生息域も限られておらず、比較的個体数も多いので、鑑賞用に採集されても採集圧は少ないと思われる。
とは言え、ただ飼育して死なせてしまうだけではなく、出来る限り繁殖にまでチャレンジして、野生個体の無駄な採集を少なくするように努めて頂きたい。
生物をただ消費するだけの趣味では、自然保護の世論が強くなる今現在、肩身が狭くなるだけである。