2020年の7月、コロナ渦の真っ最中のタイのバンコク。
日本と異なり、タイ政府のコロナへの対策は厳しく、そのためか新規感染者も目に見えて減少し、体温の検査やマスク着用の義務はあるものの平常に近い生活は可能になっていた。
チャトチャックに出向き、ベタ屋を覗いて歩くのは自分のルーティンとなっていた。
ご存知のようにチャトチャックには、数多くのベタ専門店が存在している。
そのベタ専門店でも、圧倒的に多いのはプラカット専門店。
日本の市場とは異なり、タイのマニアの人気は圧倒的にプラカットである。
その人気を裏付けるように、プラカットの改良に対する熱意は物凄く、毎年のようにニュータイプが作出されている。
タイでは、毎年各地でベタのコンテストも数多く行われているが、そこでのメインもプラカットであり、出展数は他の品種とは圧倒的な差となっている。
こうしたプラカット一色とも言えるタイのベタ市場だが、最近は少し変化が見え始めている。
数年前から見えるその変化は、ハイブリッドを含むワイルド・ベタに興味を示すマニアが増えて来たことである。
純粋なワイルド・ベタへの興味と言うよりも、掛け合わせの素材としてのワイルド・ベタへの興味のような気がしないでもないが、ワイルド・ベタに興味を示すマニアが増加して来たのは間違いない事実である。
これにはエイリアンと呼ばれる、ワイルド系ハイブリッドの影響が非常に大きい。
それに伴い、チャトチャックのベタ専門店にも変化が生じている。
ワイルド・ベタやそのハイブリッドをメインに扱うワイルド専門店の数が増えて来たのである。
昔は数多くのチャトチャックのベタ専門店の中でも、ワイルド専門店は1店しかなかったのだが、今では数店が存在している。
それらの店の在庫をチェックして歩くのも、ベタをメインに撮影するカメラマンとしての仕事である。
とは言え、そこはワイルド・ベタなので、そうそう新種が発見されるものでもなく、新しいインフォメーションを得られる機会は多くない。
それでも馴染みのショップに顔を出し、何か新しい魚が入荷していないか自分の目で確かめつつ店主にも尋ねるのが日課となっていた。
ある日、同じように店主に尋ねると、鼻息も荒く、これを見ろとばかりに飼育ビンの仕切りを外し、小型のライトである魚を照らしてくれた。
その魚はワイルド系にしては、サイズが大きく、隣同士でフレアリングする姿も迫力満点である。
店主に聞くと、マハチャイ・ジャイアントだと言う。
改良品種のベタでは、もう一般的になっているジャイアントの系統だが、ワイルド系で見たのは初めてであった。
プラカットのジャイアントの血でも導入して作出したのかと思い、店主に尋ねると、そうではないとの答えが返って来た。
ジャイアントの交配は行なっていない純粋なマハチャイだと言う。
普通のマハチャイをブリーディングしている際に、半数ぐらいが大型に育つ系統が出来たのだそうである。
こちらは同腹の普通サイズのマハチャイだと、別水槽の魚を見せてくれたが、確かにそれはノーマルサイズのマハチャイであった。
まあ、この作出経緯を信用するかどうかは、個人の判断に任せるが、ここでは聞いたままお伝えした次第である。
あくまで自分個人の見解だが、意図的かは別にしてどこかでジャイアントの血筋が混ざってしまったのだと思う。
マハチャイ(正しくはマハチャイエンシス)の新種記載論文にも書かれているが、チャトチャックで販売されている魚には、純粋なマハチャイエンシスの他に、プラカットと交配したと思われるハイブリッドも確認されたと報告されている。
そもそもマハチャイがベタ市場に導入された当時、マハチャイ・ブルーやマハチャイ・グリーンと呼ばれている魚は、純粋なマハチャイエンシスではなく、プラカットとの交配種なのである。
そんな状況から推測すると、どこかでジャイアントの血筋が入ったプラカットと交配が行われていたとしても何の不思議でもない。
隠れていたジャイアントの因子が、今になって現れて来たと考えると辻褄は合う。
このように作出経緯を想像するのも、ベタの趣味の楽しみとも言えるだろう。
純粋なワイルドでなければ価値がないと言うものではないので、交配種であったとしても何の問題もない。
ワイルド系の新しい品種としては魅力的だと感じる。
このマハチャイ・ジャイアント、オスだけでなくメスのサイズも同様に大きい。
このジャイアントのペアで繁殖させた場合の、ジャイアントの出現率などは、まだ確認していないが、運良くペアで入手できたら、ぜひその結果を報告して頂きたい。
マハチャイ・ジャイアントの飼育に関しては、ノーマルのマハチャイと同様である。
ただし、飼育容器の大きさは倍以上のものが必要だ。
また餌を食べる量も多いので、水質の悪化には注意したい。