このコラムでは過去に赤い眼をしたベタをアルビノと呼んで紹介して来た。ところがこうした赤い眼のベタを数多く自分の目で見て、またタイのブリーダーや日本のハイマニアからの情報を聞くにつれて、この表現型の魚をアルビノと呼ぶのは適切ではないような気がして来た。
実際、ベタの本場であるタイでは、ブリーダー達はこの魚の事をアルビノとは呼ばずにターデンと呼んでいる。タイ語でターとは目の事、デンとは赤で、赤い眼と言う意味である。この呼び方に習い、ここではこれら赤い眼のベタの事をレッドアイと呼ぶ事にしたい。このレッドアイ、数多くのタイのブリーダー達が固定しようとブリーディングを行ったようであるが、自分の知る限り固定できたと言う話は聞いた事がない。
まずこのレッドアイについて自分の知る限りの情報を書いていこう。レッドアイには、左右の両眼がレッドアイの個体と、片眼だけがレッドアイのいわゆるオッドアイの個体が存在している。レッドアイの多くは視力が弱い傾向があるため、両眼がレッドアイの個体は餌が十分に食べれずに成長出来ないのか、元々虚弱体質なのか成魚まで育つ個体は少ないようだ。その結果、両眼がレッドアイの個体自体かなりレアで、しかも十分な視力がある個体は更にレアである。それに対し、片眼がレッドアイの個体は、片方の眼の視力は十分機能しているためか成魚まで育つ確率も高いようで、両眼レッドアイよりも見かける機会は多い。
このレッドアイの視力に関しては、個体によりかなり違いがあり、通常の魚と同じようにフレアリングも可能な個体がいる一方、餌にも他の魚にも反応しないような個体もいる。両眼がレッドアイでも片側だけが視力がある個体も多く、こうした個体は他の魚を見せてみると反応で判る。ベタの場合、ブリーダーの多くは一定のサイズに育った段階で1匹ずつビンに分けて飼育するために、視力の弱い個体でも生育が可能なのだと思われる。
相当視力が弱い個体でも、狭いビンの中で鼻先に餌が当れば食ベる事も出来る。ただし繁殖させるにしても、視力がないのではメスを見つけることも不可能だし、そもそも卵や稚魚の世話も不可能である。元々がレアなレッドアイであるが、その中には視力も問題なく、繁殖期には泡巣を吹く個体も少ないながら存在する。視力が問題なく、体質的にも繁殖能力のあるレッドアイのオス個体は非常に少ないため、ほぼ一般に出回る事はないようである。こうした個体を使い繁殖を行なった結果を聞いた事もあるが、雌雄共にレッドアイを使っても子供にレッドアイが出ないそうだ。また片親にレッドアイを使い、そのF1同士を掛け合わせてもレッドアイが出現しないと言う報告も聞いている。どうやらこのレッドアイの遺伝に関しては、メンデルの法則は全く当てはまらないようだ。こうした一筋縄ではいかない問題点があるため、残念ながらレッドアイのベタは今だに品種としての固定も出来ていないのである。自分は遺伝に関しての深い知識もないし、またベタの遺伝に関しても不勉強なため、このベタのレッドアイの遺伝に関しての正解を導く事は不可能である。
ただし数多くのレッドアイのベタを見て来た結果、素人としての見解はある。ベタのレッドアイは、他の魚のアルビノのように眼以外の色素が欠乏している様子もない。単に眼の黒い色素のみが欠乏したためにレッドアイになっているようなのだ。いわゆる部分アルビノとでも呼べる現象なのではないだろうか?この眼の黒い色素のみが欠乏する遺伝が解明出来ればレッドアイも固定出来るのではなかろうか?実際、このコラムの第79回で紹介したブルーリムのように同じファームで同時に複数が出現する事もあるのだ。今回は、2020年の春から秋までの半年間にタイで見つけたレッドアイの中からセレクトした美しい個体を紹介しよう。また、眼の色素のみでなく、他の色素も欠乏した本当の意味でのアルビノのベタと言うのも見てみたいものである。