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山崎浩二のSmall Beauty World

第85回 ベンジャロン・イエロー

2022年11月 公開

オス同士で盛んにフレアリングするベンジャロン・イエロー。プラカットの血が入っているためかオリジナルのベンジャロンよりも闘争性が強いように感じられる。その方が撮影には楽なので、助かるが……。

コロナ渦のために丸1年タイのベタの様子を見られなくて、ブランクが出来てしまった。
これは自分にとって非常にストレスであったが、新しい気持ちでベタを見直す良い機会だったかもしれない。
そのために様々な規制が解除された2022年の5月に念願のタイに戻ってからは、精力的にベタを見て歩いた。
メインはバンコクにあるサンデーマーケット。ここは現地の人やタイ通にはチャトチャックの名称の方が通りがいい。

このコラムではもう嫌と言う程書いて来ているが、ここにはペットに特化した区域があり、その中にベタや観賞魚を扱っているショップが集中している場所がある。
もうこの場所に通いだして30年以上にはなるだろうか?昔に比べると小綺麗にはなったが、日本の観賞魚店に比べると正直かなり小汚い(失礼)店がほとんどだが、それがかえってタイらしい雰囲気であり自分は好きである。

マスタードイエローのプラカットの血筋が残っているためか、オリジナルのベンジャロンよりもやや太めの体型である。原種のスプレンデンスのような細身の体型にするために更なる選別淘汰が課題と言えるだろう。
マスタードイエローの体色の他、体側の鱗に入る黒い模様もプラカットのマスタードイエロー同様である。この個体ではヒレにややブルーの色彩も残っているが、ベンジャロンに見られる赤い色彩は全く残っていない。

ここに来る人間は店の外観などに拘っている人は皆無であろう。そこで売られている魚の質にしか興味がない人がほとんどだ。
ベタの専門店がある辺りには、それぞれ品揃えに工夫をして差別化された店が何軒もあり、それらをハシゴすれば様々なタイプのベタを一度に見る事が可能である。いつもながら、バンコクに来るたびに日本にもこのような場所が欲しいと思ってしまう。プラカットなどは、お店に並べられている水槽の仕切りを外し、自分で容易に興味を持った魚を確認する事が可能だし、パッと全体を見ただけでもおおよその魚の傾向は判る。

マスタードイエローと言うよりも、ややオレンジがかった体色とも言える。ワイルド系の改良品種では、似たような体色の魚はいないためか、より存在感があり人気が高い品種となっている。

ただし、ワイルド系を中心に並べているお店は、照明も点けていなくて、さらに水は茶色く色付いているので、魚の確認は数段難しい。なので、自分の眼で確認するよりも店主に聞いた方が早い場合が多く、いつも新しい魚が入っていないか尋ねるのが挨拶代わりとなっている。
今回は久々の訪問なので、間違いなく新顔がいるはずである。尋ねてみると、コラムのネタになりそうな新顔が3種類ほどいるようだ。その中で自分が気に入ったのが、今回紹介するベンジャロン・イエローである。ベタ・スプレンデンス・ベンジャロンは、このコラムの第63回で紹介しているので、興味のある方は御覧頂きたい。

新品種の場合、殖やされるのを恐れてか最初はメスはリリースされない事が多いのだが、ちゃんと同系統のメスが付けられてペアで販売されていた。これは非常に良い傾向で、昔ながらの悪い業界の風習は排除した方が普及のためとなる。

そのベンジャロン、独特の美しいフォルムからか、ワイルド系統としては今ではかなりポピュラーな存在となっており、赤みの強いベンジャロン・レッドなども固定されている。そこに新しくイエローが加わったと言う事である。体型はベンジャロン特有の細身にスペードテールが特徴である。カラーはイエローと言ってもレモンイエローではなく、ベタで言うマスタードカラーである。
外見を見ただけで、大凡の予想は付いていたが、改めてこの魚について尋ねてみた。この魚はこのお店の店主が作出したと言う事なので、話は早い。

他で作られた改良品種の場合、情報が伝達の途中で変化してしまい、正確な情報が得られない場合も多いからだ。
聞くと、ベンジャロンにプラカットのマスタードイエローの個体を交配して作出したそうである。これは最初に見た際に自分が想像したのが正解だった。
まあ、ベタのマニアには簡単なクイズではある。

体側に薄っすらと白い卵巣が透けて見えて、すぐにでも繁殖に使えそうなメス個体。ワイルド系は繁殖を前提として飼育するマニアが多いため、ペアでの販売は好ましい。ペアでの価格が手頃なのも嬉しいところである。

そのままでは、プラカットのごっつい体型の遺伝子が優ってしまうので、数代かけてベンジャロンの体型に近くなるように選別していったそうである。それでもオリジナルのベンジャロンに比べると、体型的にはやや太めな感じではある。
現在ではかなり形質的にも安定して、量産化も出来ているようだ。聞いてみれば簡単だが、ここまでに至る実際の作業は大変であり、こうしたブリーダーの努力のお陰で我々は新しい品種の魚を楽しむ事が出来るのである。
この原稿を執筆している2022年11月現在、このベンジャロン・イエローを元に更に新しい品種も作出されていた。それは次回のコラムで紹介する事にしよう

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