タイに滞在中は毎週数回巡回するチャトチャックのベタ通り、その中でも念入りにチェックするのがワイルド系の魚を扱っている2軒である。個人的にはやはり改良品種よりもワイルドやワイルド系の魚の方が好みであるのは、昔から変わらない。一般のお客さんの掴みは良くないこれらの店であるが、熱心なマニアが訪れた場合の滞在時間は長いようだ。ワイルド好きのマニアは話好きも多いようで、店主との情報交換にも熱が入る。たまに店主に用事があるのに話しかけるタイミングが難しいと言う状況もある。
こちらからお客さんに話しかけることはないが、たまに日本人のベタ好きだと紹介されると、物凄く興味を持って話しかけられる事がある。何故かタイのワイルド系のマニアは英語がちゃんと話せる人が多く、意思の疎通には意外と困らない。万国共通、同じ物に興味のある者同士の会話は盛り上がり楽しいものである。
話は横道に逸れてしまったが、巡回の重要ポイントのワイルド系の店、新しい魚が入るといつも声をかけてくれる。この日は作出したばかりで、まだ3ペアしか店頭に置いていないと言うスプレンデンス・ブルーを勧められた。店に並べているのはまだ3ペアだけだったが、半月後には販売できるサイズに育つ魚をたくさんストックしているそうである。いつものように仕切りを外し、オス同士フレアリングする魚を懐中電灯の明かりで照らして確認する。
ワイルドのスプレンデンス特有の細身に、尾ビレの中央がやや突出したスペードテールの体型が美しい。ブルーと言っても、全身べったりとしたブルーではなく背部付近が濃く染まり、各ヒレはブルーとイエローに染まっている。この色彩が茶色い水と暗い雰囲気の水槽に良く映える。かなり上品な雰囲気で、ワイルド系のマニアの好みのツボを心得ているな!と言う感じの色彩である。その際に見た3匹の雄はほぼ同クオリティーの魚であったが、後にリリースされた魚にはブルーではなくグリーン寄りの色彩の個体も確認出来た。
さて、魚を見せて貰った後は恒例の作出方法の質問である。この魚は、この店主のファームで作出したと言う事なので話は早い。作出には、前回このコラムで紹介したベンジャロン・イエローのオレンジ色の強い個体と、なんとスマラグディナのブルーを交配したそうである。てっきりブルーの色彩はプラカットから持って来たと想像していたが、スマラグディナとはかなり意外であった。そのため何度か聞き直してしまったが、スマラグディナ・ブルーに間違いないそうである。
交配にベンジャロン・イエローを使っているので、名称はベンジャロン・ブルーではないのか?と尋ねたのであるが、スプレンデンス・ブルーだそうである。スマラグディナを交配しているので、既に純粋なスプレンデンスではないのだが、そこには何か拘りがあるようだ(笑)。今まではワイルド系の魚で異種との交配は、エイリアンやインベリス・ブルーなどそう多くはなかったが、ここに来てその他にも2品種の魚で、異なる種類を交配に使ったと言う話を耳にした。それらは追ってこのコラムで紹介していくので楽しみにお待ち頂きたい。
このスプレンデンス・ブルー、本当に言われてみなければスマラグディナの血筋が入っているとは思えない。体型はもちろん、鰓蓋にはいる2本のラインもスプレンデンスそのものなのである。プラカットのように派手過ぎず、ワイルド系の落ち着いた雰囲気を保った本種は、個人的にはかなりオススメである。量産体制も出来ているようなので、これから日本にも紹介されると思われる。ぜひ機会があったらこの魚の美しさを自分の眼で確認して頂きたい。