このコラムでも何回か書いてきたが、ベタの本場タイでマニア達が最も熱くなっている品種はプラカットと呼ばれるショートフィン・タイプのベタである。これはタイで開催されるベタのコンテストを見れば明らかで、出展されている魚の半分以上がこのプラカットである。
またチャトチャックにあるベタの専門店も8割はこのプラカットを主体に扱っている。
日本のベタ市場での人気を聞いたところ圧倒的にハーフムーンのようであるが、これは国民性なのだろう。こうしたハーフムーンやクラウンテール、チャーンなどと言った品種は、改良ベタの歴史から見るとこの20年ぐらいからメジャーになって来たものである。
自分がタイに通い始めた30年ほど昔は、ベタと言えば闘魚用のプラカットとタイ語でパカット・チンと呼ばれるベールテールぐらいであった。パカットとはタイ語でベタの事、チンは中国の事で、中国のベタと言う意味である。このベールテールのベタが中国由来の品種なので、そう呼ばれているようだ。
この辺りは諸々検証の価値がある話なので、また機会があればここで紹介していこう。
現在でもタイではパカット・チンと呼ばれるこのベールテールのベタは、日本では他の品種と区別するためにトラディショナル・ベタと呼ばれる事もあるが、この名称はタイでは全く通用しない。ベールテールのベタとしては、レッドやブルーのソリッドカラーの個体が昔からメジャーで、数多くの魚がタイのファームでブリーディングされ世界へと輸出されて来た。
ベタとしては最も価格が手頃で入門種的な扱いとなっていて、日本のショップでも小さな容器に入れられ手頃な価格で販売されている事も多い。と言うようにベールテールはベタとしてはかなり下に見られる事が多く、残念な扱いをされてきた品種と言えるだろう。
ただし、これは安い魚を求める観賞魚市場により本当の魅力が伝わっていなかった為でもある。
現在のプラカットにも質やサイズ等で価格に等級があるように、昔からベールテールにも等級があったのだが、ハイクオリティーな価格の高いベールテール・ベタは日本の輸入元が購入しなかった為市場に紹介される事がなかったのである。
このように残念ながらベタの改良品種としては低く見られがちなベールテールであったが、ここ数年一部でその魅力が再確認され人気が高まっている。その一因となっているのが、数年前に人気を博したコイベタの色彩を身に纏ったベールテールが紹介された事だろう。
こうした派手な色彩のコイベタやキャンディのベールテールが登場した事により、ベーールテールの魅力が一気に再確認されて来たのである。
ここ数年で登場したベールテールは、体色もそうだが、各ヒレの伸長具合やフォルムも非常に美しい。ハイクオリティーな個体では、価格も高価なプラカットを超えるようになっているが、それでもマニアに受け入れられている。
コイベタのベールテールはこのコラムでも第39回で紹介しているが、2023年に市場に並んでいた個体は洗練されクオリティーも上がっているので、再度紹介したい。
このベールテールのコイベタを作っているのは、チャトチャックでキャンディのベールテール等、ベールテールを専門に販売しているブリーダーである。彼が作るベールテールは色彩の美しさだけでなく、とにかくヒレに変なクセや乱れがなくて美しく伸長しているのである。
ベタのマニア達も彼がブリーディングするベールテールの魅力を理解しているようで、開店して早々に選びに行かないと良い個体を選べない程の人気だ。自分がこの2年程で撮影したベールテールの9割は彼の魚である。
どのようにブリーディングを行っているか興味があるので、ファームの見学を希望しているのだが、タイミング的にまだその願いは叶っていない。訪問出来た際にはこのコラムでも紹介したいのは勿論である。とりあえず、今回はこの美しいコイベタ・ベールテールの姿を楽しんで頂きたい。