今回ここで紹介するのは、インドネシアの淡水域に生息するゲオセサルマ(Geosesarma)属のカニである。
以前この仲間はイワガ二科(Grapsidae)に置かれていたようだが、現在ではベンケイガニ科(Sesarmidae)に置かれている。ベンケイガニ科というと、日本でもペット用として馴染み深いアカテガニが含まれているグループである。甲羅の形がサワガニなどに比べて角張っているのが、この仲間の共通点である。
アカテガニやベンケイガニ、クロベンケイガニなどは、海水から汽水域、さらに淡水域まで生息域を広げることもあるが、基本的に卵から孵化した幼生は海で育つ。この科に属するカニのほとんどが海産で小卵型である。それに対して、ゲオセサルマ属のカニ達はさらに陸上に向けて適応し、淡水域で一生を終える陸封型の繁殖形態を身に付けている。やや大きめの卵を産み、幼生時代を卵の中で過ごし、子ガニの形になって孵化してくる。
マレーシアやシンガポールに生息している種類などでは、さらに特異な方向へと進化を遂げている。水辺ではなく、ウツボカズラの中の水を生息場所としているのである。
このように生態的にも非常に興味深いが、本属のカニで特筆すべきはそのサイズである。ほとんどの種類で甲羅の幅が2cmを越えない。カニとしては非常に小型種揃いなのである。
本属のカニはフィリピンからインドネシア、マレーシア、タイにまで広く分布し、50種類近くが記載されている。その中でもインドネシア産の数種類はここ数年コンスタントに入荷するようになっている。
カリマンタンレッド・クラブやバンパイア・クラブなどが代表種といえるが、同じインボイス名で異なった種類が入荷することもあるので、注意が必要である。
今回、写真で紹介している種類は、同じくインドネシアからインボイス名レッドカーニバル・クラブで来たものだが、日本ではディープレッドバンパイア・クラブの名称で親しまれている。ゲオセサルマ属であるのは間違いないが、学名は今のところ不明である。同じ便で届いた個体は、色彩的に非常に変異に富んでおり、甲が真っ赤に染まる個体、半分だけ赤くなる個体、ややオレンジ色になる個体、まだら模様が入る個体などが見られる。こうした個体による色彩変異は、バンパイア・クラブなどにも見られる。
この仲間は小型なので、飼育も難しくない。飼育の際には小型のプラスチック・ケースやオールグラスの水槽などを使用するとよいだろう。浅く水場を作ってやり、陸上の方を広くしてやる。観察していると、普段は水の中にいるのを嫌い、陸上の方にいる事の方が多い。砂利と流木だけのシンプルなレイアウトでも十分飼育は可能だが、苔やミニ観葉などでミニテラリウムを作ってやると見栄えもいいし、カニ自体も隠れ場所ができて落ち着く。
飼育の際に注意したいのは脱走である。本属のカニは非常に運動能力に優れており、かなり動きは敏捷である。例えていえば、ゴキブリ並みの早さで走り回る。またいとも簡単にエアーチューブなどを上って水槽から脱走する。そのため飼育容器には隙間のないようにきっちりと蓋をしておこう。
餌は魚用の人工飼料や冷凍赤虫など、何でも良く食べるので、食べ残しのないように少しずつ与える。
雌雄の判別も容易である。オスではハサミがやや大型になるのに対し、メスはあまり大きくならない。また腹部の通称カニのふんどしと呼ばれる部分を見れば一目瞭然である。三角で細いのがオスで、丸く大きいのがメスである。雌雄を飼育していれば、水槽内で交尾し、産卵も行われ、繁殖も可能である。
小型水槽でも手軽に飼育でき、コレクション性も高いゲオセサルマ属のカニは、これからもっと普及していくであろう。その魅力をいち早く体験していただきたい。