はじめに
今回はアフリカ河川産ドワーフシクリッドの代表種ペルヴィカクロミス・プルケール(以下プルケール)の繁殖について紹介しましょう。
本コーナーの第3回で紹介したペアが無事に産卵し子育てをしたので、ここではその様子などを紹介しつつ繁殖のコツを解説してみたいと思います。プルケールのプロフィールについては第3回で詳しく紹介しているのでぜひそちらをご一読ください。
シクリッドは子育てをする魚として知られ、ペルヴィカクロミス(Pelvicachromis 以下ペルヴィカ)の仲間はオスとメスのペアで懸命に卵や稚魚の世話をします。水槽内でも子育ての様子を見ることができるのでトライしてみてください。
プルケールはペルヴィカクロミス属のなかでも繁殖が容易な種ですが、ワイルド個体(生息地で採集された個体)は気性が荒かったりシビアな水質調整が必要だったりとなかなかクセが強くペアリングにてこずることがあります。といってもワイルド個体の流通は不定期で稀なため入手は容易ではありません。そこで繁殖を目指すなら流通量が多く入手も飼育も容易なブリード個体がおすすめですね。
仔魚の成長記録
繁殖のコツについて詳しく解説していく前に、まずは仔魚たちの成長記録を見てください。とても小さな赤ちゃんプルケールたちが日々成長していく様子は「感動!」です。親魚が稚魚たちを守る様子もほほえましいものです。
■ふ化後3日目
ふ化した稚魚は自由遊泳できるようになりますがまだ活発ではなく、流木の周りや水底付近を這うように移動し親魚が常に付き添い周囲を警戒します。泳げるようになった稚魚はベビーフードやブラインシュリンプ幼生を食べるようになります。
■ふ化後4日目
稚魚は浮上して自由に活発に泳ぐようになります。飼育者が水槽を覗き込んだりすると危険を察知した親魚が体を小刻みに震わせて稚魚にサインを送ります。すると泳いでいた稚魚たちは底床に集まって動かなくなります。
■ふ化後8日目
体型に大きな変化はないですが模様がはっきりし、よく食べて活発に泳ぎ回ります。稚魚は親魚に見守られながら集団で移動しますが、なかには群れから離れてしまう稚魚もいて親魚は迷子になった稚魚を口に含んで集団に戻すといった行動も見られます。飼育者が近付き過ぎると大慌てで稚魚を移動させるので、やはり刺激しすぎないことが大切。
■ふ化後20日目
給餌が十分なら日々グングン成長し体型は徐々に親魚のようになってきます。ふ化後20日も経つと丸っこかった顔が馬面になりペルヴィカっぽい顔つきに。より活発に泳ぎ回るので親魚の警戒も大変です。時にはペアのどちらかが主導権を握りパートナーを突いて仔魚の世話を促すような行動を見せることも。
■ふ化後30日目
ふ化後20日目ではまだ顔部が大きく稚魚の面影を残しますが、30日目では体が大きくなり細長くなってきました。
■ふ化後45日目
体型はだいぶ細長くなり親魚に近くなってきます。ますます食欲旺盛。
■ふ化後65日目
このころになると体型はほぼ親魚と同じようになります。模様にも大きな変化が見られ、体側の黒斑がつながってライン状に。テリトリーを主張する個体も出てきます。
■ふ化後131日目
ふ化後131日が経過しすっかり親魚と同じ体型になりました。成長が早く大きな個体はオスだと思われます。まだ親魚は幼魚たちを保護する様子を見せますが、小さな稚魚のころのような神経質な感じではありませんね。
■ふ化後474日目
ふ化後1年以上が経過すると性差がはっきりとして、ペアリングする行動も見られます。ヒレに入る模様には個体差があり写真のようにヒレの黒斑が多い個体が現れました。このような個体を選抜交配してより黒斑が多い個体を作ることもできます。
雌雄の判別方法
それでは繁殖のコツについて解説していきましょう。
繁殖を目指すには雌雄の特徴をよく知っておくことが重要です。雌雄の判別ポイントを挙げてみましょう。
・メスよりもオスのほうが大きくなる
・オスはメスよりも背ビレや尻ビレがよく伸長する
・オスの尾ビレは中央部分が突出してスペード状になる
・メスは成長にしたがって体が丸みを帯びる
・メスの腹ビレはオスよりも短く丸みを帯びる
幼魚期は雌雄の判別がやや難しいですが、成長に従って雌雄差がはっきりしてきます。
幼魚を複数匹入手してペアリング、メスに主導権を
ブリード個体は稀にペアで売られることもありますが、多くは幼魚や亜成魚で流通するため複数匹を購入し育てながらペアリングさせると相性のいいペアを得られる確率が高くなりますよ。
幼魚を5匹ほど購入して育てればペアを得られる可能性はかなり高いと思います。やや大きく育った個体ならば雌雄の判別ができるので、ショップのスタッフさんに相談しつつセレクトするのもありでしょう。
ちなみにペルヴィカには現在8種ほどが知られていますが、いずれの種もペアリングや繁殖に関してはメスに主導権を握らせることがポイントになります。つまりメスにオスを選ばせるようにすると絆の強いペアが得られます。
幼魚を複数匹一緒に育てやがて性成熟すると、メスが強いオスを選んでアピールするようになります。
オスがメスを気に入ると頭を左右に小刻みに素早くブルブルッと振るわせる様子が見られます。オスがメスを追い払わずメスと一緒にいる時間が長くなればペアの成立と考えていいでしょう。
ペアが得られたらペア以外の個体を他の水槽に移動するか、ペアを繁殖のための水槽に移してもいいですよ。
繁殖用水槽と環境
今回繁殖に使用した水槽は第3回の飼育例で使用したもので、飼育からの延長で繁殖に至りました。
水槽のサイズは幅450×奥行き220×高さ330mm/約27.8L(水槽セットはリーヴァ450N 6点セット)で、幅45~60㎝クラスの水槽であれば問題なく繁殖が楽しめます。
以前は30㎝のキューブ水槽でも繁殖しましたが、できるだけ水量の多い大きめの水槽で飼育すると水質が安定しやすく稚魚の育成も楽になりますよ。
水温は飼育時と同じで26℃前後で大丈夫です。
ちなみにライトは通常通りに点灯して問題ありません。点灯・消灯をタイマー(LEDスマートタイマーなど)で管理すると水槽に近付かなくてすむのでおすすめですね。
■水槽データ
水槽:幅450×奥行き220×高さ330mm/約27.8L
フィルター:水作スペースパワーフィットプラス M ホワイト、水作パネルフィルターW
ろ材:水作スペースパワーフィットプラス交換ろ材
底床:ソイル系
照明:ライトアップ 400 ホワイト(タイマーを使って1日約7時間点灯)
タイマー:LEDスマートタイマー
水温:26℃(水温計は貼るテンプ Mを使用)
餌:フレークや顆粒タイプのフード、ブラインシュリンプ幼生を成長ステージに合わせて1日3~4回
飼育生物:ペルヴィカクロミス・プルケール(オス1匹、メス1匹)、オトシンクルス(1匹)
水草:アヌビアス・ナナ、アヌビアス・ナナ “プチ”
暗い場所で産卵するケーブスポウナー
繁殖させるには水槽内のレイアウトもポイントになります。
プルケールはケーブスポウナーと呼ばれるように穴の中ように暗い場所で産卵するため、水槽には産卵床となる流木やシェルター(水質に影響を与えないもの)などのアクセサリを入れるのがおすすめですね。半割にした素焼きの植木鉢などを使ってもいいと思います。
卵でお腹がふっくらとしたメスは流木などの物の下側に穴を掘って産卵場所を作ることが多いですね。アクアリウム用のシェルターなどを入れてもいいですが、飼育者の意図したとおりにシェルターの中で産卵するかどうかはわかりません。魚次第ですね。
今回の飼育例でもシェルターを配置していますが、シェルター本体の下側に穴を掘って産卵しました(笑) メスがそこを気に入ったのならそれでOKですね。
産卵
産卵が近付くとメスの腹部は卵で大きくなり尻ビレの付け根の総排泄孔から輸卵管が出ているのが確認できるようになります。
産卵準備が整ったメスは腹部の赤い色彩がいっそう濃くなり体色はギラギラと輝き、盛んにオスの周囲で腹部を見せつけながらダンスを踊るように泳ぎます。体色を変化させたメスが見せる普段とは違った情熱的な泳ぎは一見の価値ありですよ。
メスの求愛ダンスにオスが応えると産卵床に移動し産卵が始まります。通常は暗い穴の中で産卵するためその様子を見ることは難しいのですが、稀に卵が見える場所に産み付けることもありますね。メスが産卵するとオスが放精し、受精卵になると発生が始まります。
親魚による卵や稚魚の世話
産卵直後からペアによる卵の世話が始まります。ヒレで卵に新鮮な水を送ったり無精卵や死んでしまった卵を食べて取り除いたりするなど、ペアは交代しながら懸命に卵をケアします。
受精卵の発生が順調に進めば25~26℃の水温なら72時間(約3日)ほどでふ化します。ふ化直後の稚魚は腹部の臍嚢(さいのう)の中にある卵黄を吸収して成長しますが、まだうまく泳げず産卵した場所付近の底床などに張り付くようにして過ごしています。
今回の産卵では約70匹の稚魚がふ化しましたが、すべての稚魚が親になれるわけではなく成長不良の個体などもいて徐々に数は減っていきます。
ふ化してから2~3日後には卵黄を吸収した稚魚を親魚が口に含んで移動させるので、ようやく飼育者が稚魚を確認することができます。この様子は何度見ても感動ものですね。
ふ化して間もない稚魚は活発に泳ぎ回ることはできず、飼育者が水槽に顔を近付け過ぎるとペアは危険を察知し稚魚を口に含んで稚魚を飼育者から見えない安全な場所に移動することもありますよ。
ペアは非常に神経質になっているため水槽に近付き過ぎないことが大切ですね。親魚を刺激することになる換水なども行わずとにかく静かに見守りましょう。
子育てで神経質になっている親魚は夫婦げんかをすることもありますが、やがて仲直りするので見守ってあげてください。
なお、産卵後から稚魚への初給餌までの間は親魚に餌を与える必要はなく、とにかく稚魚の世話に集中させることもポイントになりますよ。
稚魚への給餌
卵黄を吸収して泳ぎ始めた稚魚をよく観察してみましょう。口を動かして餌を探すような仕草が見られるはずです。また実際に微小生物などの有機物を食べている可能性もあります。そこで稚魚への初めての給餌を行います。
稚魚への初期飼料には粉末状のベビーフードや、ふ化したブラインシュリンプ幼生が適しています。一度に食べられる量が少ないため、できるだけ回数を多く給餌することがポイントです。こまめに給餌できれば成長も早くなりますよ。
私は以下のように1日3回の給餌を行いました。参考にしてみてください。
■1日3回給餌例■
・午前9:00 「メダカベビーハイパー育成」(キョーリン)
・午後1:00 「メダカベビーハイパー育成」
・午後6:00 ふ化したブラインシュリンプ幼生
※ブラインシュリンプ幼生は必ず給餌
メダカ用の人工飼料は水に浸してピペットで底床付近にいる稚魚に吹きかけるようにして与えると効率よく給餌できます。
ブラインシュリンプ幼生は稚魚用飼料の定番なのでぜひ与えたいですね。これもピペットで稚魚の群れに吹きかけるようにして与えるといいでしょう。
餌は稚魚のお腹が膨れるくらいたっぷりと与えてください。稚魚を空腹にすると成長に影響するため、お腹に餌が残っているよう心がけるのがいいですね。
稚魚が大きくなってくるとベビーフードよりも大きな粒の餌を食べられるようになり、1日3回の給餌では足りずお腹を空かせてしまうようになります。
そこでふ化後2週間を過ぎたころから1日4回の給餌を行いメダカの成魚用の餌も与えるようにしました。
ふ化後18日目には細かくしたフレークフード「ひかりネオプロス」(キョーリン)を水に浸してから与えると食べてくれたので、これもメニューに加えました。
ふ化後20日目にはだいぶ成長してベビーフードでは物足りなくなってきた感じ。以降はベビーフードの給餌をやめ「ひかりネオプロス」「メダカの舞コンプリート」(キョーリン)、ふ化したブラインシュリンプ幼生をメインにしました。
また体色が美しくなることを狙ってメダカ用の色揚げフード「メダカのエサ ハイパー色揚げ」(キョーリン)も与えるようしました。特に赤い色彩に効果が見られ幼魚の色彩もはっきりするように思います。
■1日4回給餌例■
・午前9:00 「ひかりネオプロス」
・午後1:00 「メダカの舞コンプリート」
・午後4:00 ふ化したブラインシュリンプ幼生
・午後7:30 ふ化したブラインシュリンプ幼生
※ブラインシュリンプ幼生は必ず給餌
1日4回の給餌はふ化後75日目まで続けました。このころになると親魚と同じような体型になり、だいぶ食いだめもできるようになってきたので以降は1日3回の給餌に戻しました。
なお、今回は稚魚にはメダカ用の餌を数種類与えてみました。理由は軟らかくて食べやすそうなのと、最近のメダカ用飼料の発展が目覚ましくいい餌がたくさん出ているからです。
今回の繁殖でプルケールにはとてもいい餌だと実感しましたが、当然熱帯魚用の餌でもいいですし新鮮なイトミミズが入手できるならこれを与えるとより成長が早くなります。
またプルケールはコケを食べることもあります。親魚の行動を真似してか仔魚も黒髭ゴケなどをついばんで食べる様子が確認できます。草食性のプレコ用タブレットフードを小さく割って与えても食べてくれるので、時折与えるのもいいと思いますよ。
親魚への給餌は?
親魚は稚魚に与えた餌を一緒に食べるので、あえて親用に給餌する必要はありませんよ。
ふ化後初めての換水
ふ化後の稚魚はデリケートなため換水は自由遊泳ができるようになってからにします。稚魚のころは急激な水質の変化は控えたほうがよく、しばらく換水はせずに飼育するようにします。蒸発した分の足し水はOKです。
私の場合、初換水はふ化後2週間前後を目安にしています。2週間もすれば稚魚もしっかりしてくるのと、これ以上換水しないとだいぶ水が汚れて親魚の健康によくないからです。
初換水時はメンテナンスグッズを使ってガラス面のコケの除去や、底床クリーナーで底床の掃除も同時に行いましょう。
掃除の時の動作は親魚を驚かせないように「優しくゆっくりと」が基本です。
水槽に手を入れると親魚が仔魚を守ろうと突いてくることがありますが、慌てずにゆっくり丁寧に作業すれば親魚がパニックになることはないと思います。
初換水時の換水量はやや少なめで全水量の1/4ほどが目安。
2回目以降は水槽の汚れ具合を見て1/4~1/3を目安にするといいでしょう。ふ化後4か月経過し仔魚がだいぶ大きくなってからは全水量の1/2ほどを換水しても問題ありませんでした。
初換水以降は週1回ほどの頻度で換水を行いましたが。換水後はやはり魚の活性が上がり健康状態もよくなるように感じます。
親魚と離す時期
小さな稚魚でも親魚なしで育てることは可能ですが、当分は親魚に世話をさせたほうが安心ですね。せっかくなら親魚が世話をする様子を長く観察するのもいいでしょう。
親から離せる時期の目安は体側の模様がつながってライン状になり親魚と同じような姿になってからが万全ですね。
今回の産卵ではふ化後45日目くらいにオス親が仔魚を激しく追い払う様子を見せました。また、このころには強い仔魚が他の個体を追い払う様子も見られました。
ふ化後100日目くらいではメス親の体色が濃くなりオス親にアピールする様子が見られたため、仔魚から隔離すれば産卵したのではないでしょうか。このころになると水槽に手を入れても親魚が攻撃してこないので、すでに仔魚の親離れの時期は過ぎていたと思われます。
今回はできるだけ長く親と仔魚を一緒に飼育してみました。結果的に仔魚がペアリングするようになってもトラブルなく同居できましたが、これは水槽のサイズや環境によっても変化すると思います。
一般には親魚が次の繁殖を意識しだしたころが親離れのタイミングだと思います。
繁殖のポイント~まとめ~
・繁殖に適した水槽サイズは幅45㎝クラス以上
・絆の強いペアを得るには幼魚から飼育してペアリング
・流木の下などに穴を掘って産卵
・稚魚への給餌は回数を多くこまめに
・ふ化後2週間ほどは換水せずに飼育
・親魚と離すなら体側の模様がライン状になってからが安心
おわりに
今回はアフリカ河川産ドワーフシクリッドの魅力を存分に楽しめるペルヴィカクロミス・プルケールの繁殖について紹介しました。ペアで協力して子育てをする興味深い行動を、ぜひ水槽内で観察してみてください。
仔魚を守る光景を目にするとシクリッドがますます好きになりますよ。
では、また!