協力/OFYさがみ、リオ
はじめに
今回はチョコレートグーラミィ(以下チョコグラ)を紹介しましょう。バレンタインデーに合わせてという何ともベタなノリですが飼育してみると意外と、いや結構なくせ者なんです。事前にしっかりとチョコグラのプロフィールを把握して飼育してみましょう。
チョコレートグーラミィとは
アクアリストにはチョコグラという略称で親しまれている本種は、その名の通りチョコレート色の独特の体色が特徴で丸っこい体型やおちょぼ口などチャームポイント満載の愛すべき魚です。ベタやドワーフグーラミィなどと同じアナバンティッドの仲間で全長5㎝ほどの小型種。マレー半島からスマトラ島、ボルネオ島に分布しています。
学名はSphaerichthys osphromenoides。スファエリクティス属にはチョコグラを含めて4種が知られています(表参照)。なかでもチョコグラはとても古くから観賞魚として知られていて多くのアクアリストに親しまれてきました。他の3種は主に1997年以降に日本で流通するようになりましたが、それまでは幻の存在だったのです。現在ではチョコグラに次いで輸入量が多いのがバイランティ、次がセラタネンシス、アクロストマはなかなか流通しないのが残念ですね。
アナバンティッドの仲間に共通するのが空気呼吸をするという生態ですが、もちろんチョコグラも水面に口先を出して呼吸をします。ただし改良ベタやドワーフグーラミィなどに比べるとその頻度は低く、しかもビビリながら素早く吸う感じ。チョコグラの警戒心が強い習性がよく表れていますね。
またアナバンティッドの仲間は泡巣を作るグループと、口内で卵や稚魚を保護するマウスブルーディングを行うグループに分けることができますがチョコグラは後者。小さなおちょぼ口でありながらもオスは卵を口いっぱいにほおばって保護します。
チョコグラの自生地からわかること
私は2008年にマレー半島で採集調査を行いましたが、その際にチョコグラを採集することができました。現地の様子を知ることは少しでも飼育にプラスになると思うので、その時の様子をちょっと紹介しておきましょう。
チョコグラを採集した場所はマレー半島の南端、マレーシアのジョホール州ポンティアン近郊の小川でした。ポンティアン周辺は泥炭層の湿地が広がり、アブラヤシ林の間を縫うように流れる小川は堆積した植物のタンニンで茶色く色付いた、いわゆるブラックウォーターです。川幅は3mほどで川岸にはイネ科の草が生い茂り、川の中からはイグサの仲間が生えている場所もあります。このような植物の周りは魚の絶好の隠れ家になっていると想像できます。草の周りをガサガサやれば、きっと熱帯魚が採れるはずです。
小川を覗くと浅い場所に黒い体に白い模様をしたものがウロチョロしていました。一見したところでは魚っぽく見えませんが、よく目を凝らすとそれがチョコグラ。初めての出会いでした。情報では知っていましたが実際にブラックウォーターに泳ぐチョコグラを目にすると感動ものです。泥炭地らしく水底はふかふかとして柔らかく足首まで沈み込みます。難儀しながら10匹ほどを採集。採集しながら気付いたのは、彼らはゆるやかなテリトリーを持ちつつ泳ぎ回りながら餌を捜し他の個体が近付くとテリトリーから追い出すという行動を繰り返していたこと。そのため手網では複数匹を一網打尽とはいかず、1匹ずつ採集するのはなかなかの重労働でしたね。採集した個体のなかに卵をくわえているオスを発見! これにもまた感動。
水上から見ると水はほとんど真っ黒な感じですが、ケースですくってみると黒ではなく、うっすらと茶色く色付いている感じ。水深や水底の堆積物などの影響によって黒く見えるのですね。現地の水質はpH5以下の軟水です。これはチョコグラを飼育するうえでとても重要なポイントです。一見堆積物などで汚れているように見えるブラックウォーターは、実は汚れの少ないとても清浄な水なのです。チョコグラはこのような清浄な水域にしか生息しておらず、そのため飼育の際に水が汚れると調子を崩すことが多いのです。
この小川で採集した熱帯魚はラスボラ・アインソベニー、同じアナバンティッドのスリースポットグーラミィやベロンティア・ハッセルティ、アナバス、バンカスネークヘッド、アーモンドスネークヘッドなどなど。水中には強力な捕食者がいるばかりか、水上には大きなカワセミの姿も。一見チョコグラの楽園のように見える小川ですが、彼らは生き延びるために懸命に生きているのだなと実感しました。
流通と入手
チョコグラは年間を通してよく流通し入手はしやすい魚です。輸入されるのはインドネシアなどの現地で採集されたいわゆるワイルド個体。サイズは3㎝ほどの亜成魚から成魚クラスまで様々です。問題は輸入状態。チョコグラは水の汚れや体表の擦れに弱く、輸送時にダメージを追いやすい魚なのです。チョコグラの飼育をうまくスタートできるかどうかは、状態のよい個体を入手できるかにかかっています。
そこでショップでチョコグラを見付けたら、まずはじっくりと観察します。体表や目の色艶がよくスイスイと元気に泳いでいる個体、餌を捜している個体などが購入するにはいいですね。逆に肌に艶がなく目が濁っていたり、尾ビレをすぼませてフラフラと泳いでいるような個体はNG。ショップに入荷してからだいぶ日数が経って水槽の環境に馴染み、餌をしっかり食べているような個体が◎ですよ。購入時にショップのスタッフさんに入荷してからどのくらい経ったのか聞いてみるのもいいでしょう。とにかく状態のいい個体を入手すること。これがチョコグラ飼育の第一歩です。
臆病なのに攻撃的!? チョコグラの飼育数問題
生息地の様子からもわかるようにチョコグラはゆるやかにテリトリーを持ちつつ、他の捕食者を警戒しながら暮らしています。そのため水槽内でもかなり臆病な面を見せ、飼育初期には物陰に隠れてなかなか姿を見せてくれないことも。しかし周囲に敵がいない環境では時間が経つと行動が大胆になってきて、積極的に餌を捜すなど好奇心旺盛な一面を見せてくれますね。
難しいのは何匹飼育するかという点です。というのもチョコグラは臆病なのに同種には物凄くきつく当たるという行動が見られ、時には強い個体が弱い個体を頻繁に攻撃して弱らせてしまうこともあるのです。これは生息地でも見られたようにテリトリーを持つことによる行動でチョコグラの本能なのです。そこで考えたいのが飼育数の問題と水槽内のレイアウト。小さな水槽に少数飼育というのは結構危険で弱い個体に攻撃が集中しやすくなります。そこで複数を飼育する場合は大きめの水槽を使ってチョコグラの数も多めにすることで攻撃を分散する、というのが飼いやすいと思います。さらに水槽内には水草や流木をたっぷり配置して、追われた個体がすぐに身を隠せるようにするのも大切ですね。
今回の飼育例では幅45㎝の水槽に全長4㎝ほどの個体を8匹飼育しています。普段はまぁまぁ大人しく混泳していても、餌を与える度に本能のスイッチが入るようで1匹の強い個体が他の個体を激しく追い払う様子が見られます。「ここは私の餌場! 出ていけ!」といった感じに荒れるのです。攻撃される個体は7匹ですが、数が少ないとちょっと厳しいかなとも思います。水槽サイズは幅45㎝なので6~8匹くらいが妥当な線でしょう。これ以上多いと窮屈な感じもします。
また長期飼育しているとパワーバランスに変化が出てくることも。一番強かった個体に抵抗する個体が出てきて攻撃が弱まるなんてこともあります。まぁこの辺は個体の性格によっても変わりますので、毎日よく観察してみてください。攻撃が激しすぎて見ていて辛いというときは、水槽サイズを大きくして水槽内のレイアウトを変えてみるというのもありでしょう。
飼育のポイント
いくつかのポイントを押さえ、うまく水槽内の環境に適応してくれれば丈夫な面も見せてくれます。飼育者が水槽の前に立つと餌を待つようになるくらいに馴れてくれることも。まずは飼育のポイントを押さえましょう。
◆チョコグラの飼育例
ここではチョコグラを超小型のコイの仲間ボララス・ブリジッタエ(10匹)とスンダダニオ“ネオンブルー”(20匹)との混泳で楽しむため水槽をセットしました。チョコグラのみでも問題なく飼育できるのですが、他に温和な魚が同居していると人工飼料の食い付きがよくなったり、飼育者に馴れやすくなる傾向も見られます。水質はpH5.8ほどを維持。同居魚を含めてやや飼育数が多いため定期的にフィルターの掃除や、底砂の掃除と一緒に換水を実践し水質を清浄に保っています。
水槽:幅450×奥行き220×高さ330mm/約27.8L
フィルター:水作スペースパワーフィットプラス M ホワイト、水作パネルフィルターW
ろ材:水作スペースパワーフィットプラス交換ろ材
底床:ソイル系
照明:ライトアップ 400 ホワイト(タイマーを使って1日約8時間点灯)
タイマー:LEDスマートタイマー
水温:26℃(水温計は貼るテンプ Mを使用)
餌:朝にフレークまたは顆粒タイプのフード、夜にブラインシュリンプ幼生、冷凍アカムシを時々
飼育生物:チョコグラ(8匹)、スンダダニオ“ネオンブルー”(20匹)、ボララス・ブリジッタエ(10匹)オトシンクルス(1匹)、ヤマトヌマエビ(2匹)
水草:ミクロソルム“ウェイビーリーフ”
※水槽セットはリーヴァ450N 6点セット(水槽/フタ/保護マット/フィルター/LEDライト/カルキ抜き)を使用
●水槽
成魚で全長5㎝ほどになるので幅30㎝以上の水槽での飼育がおすすめです。1匹なら幅20㎝クラスの小型水槽でも大丈夫ですが、複数になったら大きめの水槽を心がけてください。できれば幅45㎝以上、幅60㎝クラスであれば水質も安定しやすく、さらに飼いやすくなりますね。
●水質
現地の情報でも書いたようにpHの低い軟水を好みます。これはチョコグラの必須条件と考えておきましょう。そのため水槽内にpHや硬度を上げてしまうもの、例えばサンゴ片や貝殻、水質に影響を与える石や砂利、アクセサリなどは入れないようにします。
実際の飼育ではpH5前後~6.5前後を目安にします。加えて重要なのが、水が清浄かどうか。pHが低くても水が汚れていると病気にかかりやすくなります。チョコグラはかなり水質に敏感でデリケートな魚なので、ろ過システムをしっかりと構築して飼育をしたいですね。
●フィルター(ろ過)
水槽内に汚れが目立つと調子を崩す個体が出てくるのでろ過は重要です。特に水槽セット初期など水質がまだ安定していない時期は要注意。先に他の魚を飼育し、ろ過バクテリアが機能して環境が整ってからチョコグラを迎え入れるというのもいいですね。
内部式や外部式が使いやすく、外掛け式や底面式なども問題なく使えます。今回の飼育例ではメインに「水作スペースパワーフィットプラス M ホワイト」を使用し、サブに「水心シリーズ」などのエアポンプで作動する「水作パネルフィルターW」を水槽の壁面にセットしています。チョコグラは強い水流を好まないためフィルターの出水は水面付近に向けています。
●ろ材
水質をアルカリ性にしないものを使用します。水質に影響を与えないものや、水質を弱酸性にするものなどが適しています。いずれもフィルターに合ったものを使いましょう。
●底砂
底砂は水質に影響を与えるものもあるためセレクトが重要です。扱いやすいのは軟水を作りやすいソイル系の底砂です。一口にソイル系といってもpH調整機能が施されているものもありますので、チョコグラに合った水質を得られるものを選ぶのが大切です。また水質に影響を与えなければ砂利も使用できます。
●水温
25~26℃あたりを維持すれば問題ありません。夏場は高温にならないようエアコンを使ったり、水槽「ミニクールファン USBstyle」などの冷却ファンを取り付けて温度を下げる工夫をしましょう。
●照明
チョコグラの観察や水草の育成に必要です。今回の飼育例では「LEDスマートタイマー」を使用して約8時間照射していますが、1日に6~10時間ほどを目安に点灯するといいでしょう。
●餌
フレークタイプや顆粒タイプなどの人工飼料、冷凍アカムシや冷凍ブラインシュリンプ、凍ミジンコなどの冷凍飼料など餌はいろいろ食べてくれます。空腹であれば水底に落ちた餌も積極的に食べる様子も観察できますね。またブラインシュリンプ幼生もいい餌です。ただし連続して与え過ぎると調子を崩したり、残り餌などで水を汚しやすくなります。適量を把握して必ず食べきる量を与えることが大切ですね。
●水槽内のレイアウト
弱い個体が追われた時に逃げ場となるようにたっぷりの水草と流木などでレイアウトしましょう。レイアウトが面倒ならミクロソルムやアヌビアスなどの葉が大きめの水草を多めに入れるだけでもいいですね。とにかく隠れ場所をたくさん用意してあげましょう。また水底付近はスペースを空けておくと落下した餌を食べやすくなりますし、底砂の掃除がしやすいのもメリットですね。
●他魚との混泳
チョコグラよりも強い魚と混泳させるとビビッて出てこなくなったり、いじけて調子を崩すこともあります。そこで混泳相手には温和な小型魚などをチョイスしチョコグラを主役にしましょう。今回の飼育例では、チョコグラと同じような水質を好むインドネシア産のボララスとスンダダニオという超小型のコイの仲間を同居させています。チョコグラはこれらの小型魚にはちょっかいを出さないことが多いのですが、以前小型魚とチョコグラ1匹を混泳させたところ、この1匹が暴君化。餌を与えると他の混泳魚を思いっきり追い払うという暴れっぷりを見せました。個体の性格や混泳環境にもよると思いますが、混泳がうまくいかない場合は魚を入れ替えるなどの作業も必要となりますね。臨機応変に対処しましょう。
混泳に向く魚
・メダカの仲間:ランプアイなどのメダカの仲間
・小型のカラシン:レッドテトラやディープレッドホタルテトラなどの小型種
・小型のコイ:エスペイやボララスなどの小型種
・温和なナマズ:オトシンクルスや小型のコリドラスなど
・ドジョウ:クーリーローチなどの温和な種
・エビなどの小型甲殻類:ヤマトヌマエビやミナミヌマエビなど
混泳に向かない魚
・中~大型魚:チョコグラを攻撃したり食べてしまうのでNG
・シクリッド:シクリッドの仲間はチョコグラを攻撃する可能性があるので、小さな水槽では混泳を控えたい
・アナバンティッド:ケンカする可能性があるので混泳は控えたほうが無難
・アルカリ性や汽水を好む魚:水質が合わないのでNG
●日常の管理
毎日チョコグラの体調をよく観察し水質の維持に気を配りましょう。特に水底に汚れが溜まってくると調子を崩したり病気にかかることがあります。そのため底砂の定期的な掃除と換水をおすすめします。水槽のサイズにもよりますが、今回の飼育例のような幅45㎝クラスの水槽であれば、だいだい2~3週間に一度を目安に底床の掃除と換水をするといいでしょう。換水用の水はpH降下剤などで調整したものを使用します。
●調子を崩したら
チョコグラが調子を崩すときは常に尾ビレをすぼませていることが多く、このような個体がいたら早めに換水をして水をきれいにしたりアーモンドリーフやブラックウォーターエキス、「ベタのリーフエキスパック」などを使って作ったブラックウォーターなどを入れると改善が見られることがあります。
この尾ビレをすぼませる状態は体調不良の前兆で、放置しておくと病気が進行し死んでしまうこともあります。かかりやすいのはカラムナリス病やエロモナス病などの感染症です。水質の悪化や保菌している個体からうつることが原因となることが多いようです。各ヒレをたたんで変な泳ぎをしたり、前後に揺れるように泳ぐ個体もこれらの病気を疑います。この場合は別の水槽で魚病薬を入れて薬浴します。重度の場合は助かる確率はかなり低くなるので早めの対処はもちろん、日頃から水質を清浄に保って病気を出さないことが大切です。
●繁殖の可能性
うまく飼育できて個体が成熟してくると、攻撃されても逃げない、2匹がダンスを踊るようにクルクルと回りながら泳ぐといったペアリング行動が見られるかもしれません。しかし慣れないとオスとメスが判別しづらいのがチョコグラの難しいところ。チョコグラの仲間はいずれもオスよりもメスのほうが色彩は派手になるという傾向が見られます。チョコグラの場合は赤みが強い個体はメスの可能性が高いようですが、必ずしもメスが赤くなるとは限らないので、ペアリングしてみないとわかないかもしれません。複数を飼育してそこから自然とペアリングさせるのがベターですね。
おわりに
比較的安価で販売されるチョコグラですがなかなかのくせ者で、飼育には軟水の水質を長期間維持するテクニックや飼育数のバランスの見極めなどが必要になります。初めは手こずるかもしれませんが、うまく飼育できれば独特の体色や模様、泳ぎ、愛らしいおちょぼ口で一生懸命餌をついばむ様子に心癒されるはずです。ハードルは高いですが、うまく飼育して産卵シーンを見ることができればさらにチョコグラ愛は深まるでしょう。癖があるけど面白い小さなグーラミィの飼育を楽しんでください。では、また!