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久々に大作とも言えるベタ本を製作したもので、もうしばらくベタを見たくないと思ったのは正直なところである。
ところが、いざバンコクに戻ってみると、次作の予定はないのだが、いつものように新しいベタを探し求めてしまう自分がいたりする。
相変わらずの貧乏症には自分ながら呆れてしまう。
カメラマンはとりあえず写真が財産なので、撮れる際には撮っておこうという心理が働いてしまう。
とは言え、片っぱしから節操なく撮影する訳ではない。
第一に新品種やニューカラーの美個体が優先である。
次に一般受けはしそうもないのだが、記録として残しておきたい個体を選ぶ。
本作りの際には、美しい大衆受けのする魚だけでは、読者が飽きてしまうので、所々にアクセントとして個性的な魚の写真も混ぜておくのである。
バンコクに滞在している際には、週に数回チャトチャックと呼ばれるサンデーマーケットにベタやその他の魚や生物をチェックしに行くのが日課となっている。
例年なら、4月のソンクラーンと言うタイのお正月である水掛祭りを過ぎると、暑さがやわらいで来るものなのだが、今年は5月になってもまだ猛暑である。
実際、お昼過ぎの日向は殺人的な暑さである。
コンクリートが地面の日向に出ようものならクラクラしてしまうほどだ。
チャトチャックのベタ屋が数多く集中している辺りは、バラック小屋の集まりのようなものなので、更に暑く感じる。
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現在、その旧チャトチャックを取り壊して、エアコンの効いたビルに移転させると言う構想がある。
チャトチャックのペットの区域の裏にある、数年間建設が止まっていたビルの建設が動き始め、そこへの移転計画が進んでいると言う話を良く耳にするようになった。
お客の側からすると、現在のように暑さの中を汗をダラダラ流しながら魚選びをしなくて済むならそれは有難い。
ただし、高い家賃が魚に乗っからなければの話だが!
とは言え、もう30年近くお世話になったこの古くて汚いエリアにも愛着がある。
何でも綺麗に新しくすればいい訳ではなく、この昔から続く味わいのある風景は、ある意味文化遺産とも言える。
この迷路のように入り組んだ、汚い複雑な店並びがチャトチャックの魅力とも言える。
この猥雑なマーケット故に、外国の観光客が集まって来るのではないだろうか?
このような考えは、もう古いのであろうか?
時代の流れには、逆らえないのであろうか?
日本でも元号が変わり、時代は令和になった。
タイでも、新国王の戴冠式が終わり、新しい時代となった。
これからタイのベタのマーケットはどのように変わっていくのであろうか?
前振りがながくなってしまったが、今回紹介するのは、ニモベタのWテールである。
現在のチャトチャックでは、ニモやキャンディに代わる、新しい品種がないことから、どこもかしこもニモベタばかりである。
さすがに本製作のためにニモを撮影しまくったので、自分的にもニモには少々飽きが来ている。
ニモのジャイアントも登場しているが、まだまだ一般的な値段とは言い難いので、日本の市場にもあまり出回っていないだろう。
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ニモのハーフムーンもいるにはいるが、まだ完成度はイマイチで、本当に撮影したいと思う個体には滅多に出会えない。
そうした中、やっとと言うか、遅ばせながらと言うのか、完成度の高いニモベタのWテールが比較的手頃な値段で登場した。体色もちゃんとニモやキャンディしているし、Wテールもセレクトすれば体型もばっちりである。
手頃な値段とは書いたが、通常のニモの数倍の価格ではあるので、そうそう10匹まとめてなどと言う大人買いは出来ない。購入の際には、慎重に体色や体型をチェックしてモデル選びをする。この際に重要なのは、闘争性である。
ショップの水槽で仕切りを外しても、隣の魚と闘争しない個体はモデルとしてはパスである。
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撮影の際にヒレを広げない個体は、いくら美しくてもモデルに適さないのである。
このように他のお客からすると迷惑なお客になりながら、クソ暑いショップの中でベタ選びをしていると、ふと1匹の魚に目が止まった。
ある瞬間に眼が赤く見えたのである。
その魚を改めて見ると、眼は赤くない。
しかし、反対を向いた際に眼を確認すると赤であった。
コイベタやニモベタには多い、両眼で色彩の異なるオッドアイであった。
両眼共に赤い個体の多くは視力が弱く、闘争性もほとんどないのだが、このオッドアイの個体は片目は通常の視力があるせいか、ちゃんと他のオスとフレアリングしてくれる。
そのため、撮影は比較的楽なのである。
もちろん、その個体はすぐにモデルとして購入したのは言うまでもない。
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商売ならば、一番売れそうな綺麗な個体を選んで購入するのだが、自分達カメラマンは本の製作などを目的にモデル選択を行う。
そのために、できるだけ似た色模様の個体は避け、色模様の事なるバラエティを主目的にモデル選びを行う。
この辺りは単なるマニアとは大きく異なる点であろう。
こうした視点で選んだのが、今回このコラムで紹介するニモベタ・Wテールである。
このような日々の積み重ねで、多くのバラエティを紹介した本が作られる。