水作株式会社

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山崎浩二のSmall Beauty World

第66回「イエロー・スプレンデンス」

2020年2月 公開

オス同士で闘争するイエロー・スプレンデンス
オス同士で闘争するイエロー・スプレンデンス。通常のスプレンデンスでは赤い部分が、黄色に置き換わっている。鰓蓋の黄色、腹ビレの黄色がよく目立っている。成長に連れて尾ビレの中央はもっと伸長し、スペードテールになるであろう。

2019年秋、台風のため成田空港からのバンコク行きの飛行機の予約を何度も変更させられるというトラブルに見舞われ、予定よりも4日遅れでやっとの事でバンコクに到着した。
まあ、作年の台風による各地の被害は大きく、被災した地域の方々に比べれば、大きな被害ではないのだが、考えていた予定が狂ってしまうのは、ストレスであった。

さて、バンコクに到着したら、まず行くのが、サンデーマーケットやウィークエンドマーケットとも呼ばれるチャトチャック市場である。
もうここに通い始めて、30年近くになる。
その様子も昔とは大きく変化しているが、何故か汚らしかった昔の佇まいの方が懐かしく思われる。

そのチャトチャック市場に、2019年8月末ミックス・チャトチャックと言う新しいショッピングモールがオープンし、更に賑わいを見せている。
チャトチャックには、以前からJJモールというショッピングモールがあり、冷房施設のないペットのエリアを歩き疲れた際には、涼しいいビルの中は、水分補給をして体を休める為に随分と助けて貰った。
バラック小屋が連なったようなベタのショップが集まっているエリアは、日中は地獄の暑さで、適当に涼しい場所で休憩していないと、熱中症ににもなりかねない。
こうした、休憩エリアの選択肢が増えたのは有難い。
しかも、自分が集中的に見て回るペットの区域は、広大なチャトチャック市場のちょうどJJモールとミックス・チャトチャックの中間ぐらいに位置している。

青みの強い個体
やや若いイエロー・スプレンデンスとしては、青みの強い個体。鰓蓋や腹ビレの黄色はよく目立つが、尾ビレや尻ビレの黄色味はあまり強くない。体色も黄色より青みが目立つ感じである。

さて、このペットのエリア、ミックス・チャトチャックが出来たら、取り壊され、その中に強制的に引っ越しさせられると言うような噂も流れていたが、今の所大丈夫なようである。

現在のところ、ベタのマニアにはよく知られたインター・フィッシュと言うベタ屋だけが、このミックス・チャトチャックに入っている。
その他のベタ屋達は、以前からのエリアで元気に頑張って商売をしている。
しかし、数ヶ月ぶりに覗いてみると、移転したり新店がオープンしたりと、少しづつ様子は変化している。
その中でも、自分が長く付き合いを続けているのが、ワイルド専門のおじさんのお店である。
お世辞にも綺麗とは言えないそのお店は、特に照明もなく、気になった魚は店主から懐中電灯を借りて、自分で照らして見ると言う超オールドスタイルだ。
とは言え、ここの店主の魚を見る眼は確かで、自分は絶対の信頼を置いている。
今までにどれだけの魚が、ここからモデルとして自分のところに来たであろうか?
ここに顔を出すと、店主はいつでもニコニコと寄って来て、新しい魚があると、水槽の間の仕切りを外して、フレアリングする魚達を懐中電灯で照らして見せてくれる。

イエロー・スプレンデンスとしては少々変わった色彩をした個体
イエロー・スプレンデンスとしては少々変わった色彩をした個体である。尾ビレや腹ビレの一部にオレンジ色の斑紋が入っている。鰓蓋も黄色というよりもややオレンジ色がかっている。ヒレや体色も青味が強く、イエロー・スプレンデンスと言うよりも、別なネーミングの改良品種に作っていった方が面白いかもしれない。

今回は、入り口付近の水槽に見慣れない色彩の魚がいた。
パッと見た感じの印象は、まだ若い細身のマスタードガスのプラカット。
これは?と尋ねると、イエロー・スプレンデンスだと言う。
確かに、言われてみるとワイルドのスプレンデンスの体型である。
体やヒレから赤味を抜き、そこを黄色に置き換えたような魚だ。
尾ビレの中央は伸長し、スペードテールっぽい個体が多い。
ここで、店主にいくつか質問してみた。
この魚は純粋なワイルドなのか、それとも交配で作った改良品種なのか?
改良品種であるなら、どのような経緯で作出したのか?
答えは、改良品種で、ワイルドのスプレンデンスのオスにプラカットのマスタードガスのメスを交配し、数代かけて赤い色素の無い、ワイルド体型のスプレンデンスを作り出したのだそうだ。
元になったワイルドのスプレンデンスは、どこの産地なのか尋ねたら、店主の友人が作った魚なので、それは不明との事であった。
尾ビレの伸長具合から推測すると、最近よく見かけるベンジャロンあるいはプールア産、ドンムアン産辺りが怪しいが、自分はベンジャロンの可能性が高いような気がする。

体型、色彩共にイエロー・スプレンデンスの典型のような個体
体型、色彩共にイエロー・スプレンデンスの典型のような個体である。腹ビレ、尻ビレ、尾ビレのみならず、背ビレにも濃く黄色が入る。各ヒレのエッジの黒も黄色をよく引き立てている。体高のある体型にしてしまったら、ただのプラカットのマスタードガスになってしまうので、スリムな体型の維持は必須である。

異なった種類同士を交配し、ハイブリッドやエイリアンとタイ人に呼ばれている魚がここ数年流行っていたが、最近ではこのようにプラカットのメスを使い、ワイルド系統にその色彩を取り込む品種改良が行われるようになっている。
今回紹介するイエロー・スプレンデンスの前には、このコラムでも紹介したイエロー・インベリスも、同じような交配で作出されている。
今回のイエロー・スプレンデンスで残念だったのは、ブリーダーが殖やされるのを恐れてなのか、オスしかリリースしていない事であった。
殖やす殖やさないは別として、マニアはワイルド系のベタを購入する際は、ペアでの購入が絶対である。
このようにオスだけしか販売していないと言われてしまうと、購入意欲がいきなり萎んでしまうのは、自分だけではないだろう。

今回はこのコラムで紹介する為に、撮影用にオスだけ購入したが、普通だったらスルーである。
ベタではないが、チャトチャックで卵胎生メダカの、ミクロポエキリア・ピクタやパラエと言った種類もたまに見かける。
しかし、十年以上昔からこの2種類に関しては、オスしか販売されていないのである。
輸出に関しても同様で、オスのみでメスは決して出さないというのが続いている。
確かに卵胎生メダカは繁殖も容易なので、ペアで販売したら、すぐに繁殖されてしまうだろう。
けれど、それによって売れなくなる事を恐れるよりも、ペアであるためにより売れると言う選択をした方が、より現実的な考えだと思うのだが、いかがだろうか?

イエロー・スプレンデンスの場合、たぶんメスをリリースしないのは、初期だけだと思われるが、同業者ならともかく、マニア相手に殖やされる心配などはいらない。
オスのみの値段を聞いても、非常に手頃な価格だし、そんな魚を殖やしてひと儲けしようなどと言うピントのずれたブリーダーもいないだろう。
たぶん2020年には、このイエロー・スプレンデンスは、ペアで販売されるようになり、日本でも入手可能になる事だろう。
色彩的には地味なので、万人受けする魚とは言い難いが、ワイルド・スプレンデンスのラインナップの中には有りかと思われるので、見かけた際にはぜひ大切に飼育して頂きたい。
こうした品種は、誰かが大切に系統維持しておかないと、すぐに市場からいなくなってしまいそうな気がする。

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