チャトチャックのベタ屋には、大きく分けて2つのタイプがある。
ひとつは一定の場所に店舗を構えているタイプで、扱っているベタの数も多い。
もう一つは決まった店舗を持たずに、屋台のように移動可能な小規模なショップである。
こうした決まった店舗を持たないベタ屋も、縄張りがあるのか多くの場合いつも同じ場所で商売をしている。
土日しか営業していない店がほとんどである。
当然扱っているベタの数も少ないので、少数精鋭と言う品揃えである。
思いっきり手頃な値段か、強気な値段かどちらかであるが、前者の方が多いようだ。
つい先日、昔から知っているこの小規模な店で面白い魚を見つけた。
この店は、アングル2つと小規模ながら、かなりハイレベルな魚を揃えている。
たまに気になる魚がいるのだが、いつも自分の予算の上をいく値段なので、なかなか購入する事はないのだが……。
このお店のオーナーは女性の方なのだが、かなり良い選別眼をしているので、昔から自分は一目置いている。
タイのベタ・シーンでは、このように活躍している女性の方も数多い。
この辺りは日本とは大違いである。
以前、コイベタの取材の際に訪問したベタ・ファームのオーナーも女性の方だった。
自分がタイに来て初めて訪問し、今でもお付き合いのあるベタ・ファームのオーナーも女性の方である。
チャトチャックだけを見ても、女性がオーナーのベタ屋は少なくない。
こうした女性オーナーのベタ屋は、男性オーナーのベタ屋とはやや異なった視点でセレクトされたベタが揃えられていて、巡回は欠かせない。
ただし、しっかりした女性が多いので、価格交渉は男性よりも難しい印象なのは、自分の気のせいだろうか(笑)
タイと言うお国柄のためだろうが、チャトチャックにはオカマの方がオーナーのベタ屋も存在している。
様々な色彩や形態のベタをセレクトするには、選び手の感性が重要となる。
男性のみならず女性やオネエ系と言った広い感性でセレクトされたベタを見られるのも、タイならではなのだ。
さて、話題を最初に戻そう。
この女性オーナーの小規模店で見つけたのは、インベリスであった。
この店では、ワイルド系のベタは、他の改良品種のベタとは別のアングルに収容されていた。
遠目にもインベリスの特徴がはっきりと確認できたのだが、何か印象が異なっている。
照明のせいかと思い、近くによって改めて確認してみるが、やはり普通のインベリスとは違う。
何が異なっているかと言うと、インベリスの一番の特徴である尾ビレと尻ビレ後端の赤い色彩である。
これが赤ではなく、オレンジ色なのである。
ここのところインベリスの改良品種も増え、ブルー・インベリスやイエロー・インベリスもこのコラムで紹介して来た。
そこに新たに新色が登場したようだ。
オレンジ・インベリスである。
この新しいインベリスは、ブルー・インベリスをブリーディング中に出現したようだ。
体色のブルーに、オレンジ色がよく映える。
ただし、通常のインベリスと比べ、ヒレのブルーとオレンジの境界がはっきりとしておらず、キレが悪く感じる。
ブルー・インベリスの作出には、プラカットの血筋を使っている。
そのためか、この魚はややサイズも大きく、体高も高く感じる。
その分、見応えもあるのだが、これ以上プラカットの血が濃くなると、インベリスとは呼べなくなってしまうだろう。
実際、性質はプラカットに近く、非常に激しくフレアリングを行う。
そのため、撮影は非常に簡単であった。
改良品種をどうのような方向に持っていくのかは、ブリーダー次第である。
オリジナルのインベリスの細身の体型を保ち、ヒレのブルーとオレンジの境界のキレが良くなれば、さらに美しい魚となるだろう。
この時はメスを販売していなかったので、店主に翌週に持って来て貰う約束をした。
と言うことで、翌週同じ店に行ったところ、想定外の光景が!!
なんとオレンジ・インベリスの別タイプが展示されているではないか。
こちらのオレンジ・インベリスは、見るとすぐにイエロー・インベリスの黄色が濃くなってオレンジ色になったと想像できた。
こちらはオレンジイエローで、こっちの方がオレンジ・インベリスと呼ぶには相応しい感じだ。
オレンジ色の入り方や濃さには個体差があるようで、展示されている5匹程の個体はすべて異なった表現型であった。
その中から典型的な2個体を選んだのが、今回写真で紹介している個体である。
期せずして、2タイプのオレンジ・インベリスに巡り合うことができ、ベタ好きとしては興奮を隠せなかった。
約束のメス個体はと尋ねると、なぜか話をはぐらかされてしまった。
今回のオレンジ・インベリスもオス個体だけだったので、ぜひメスが欲しいと伝え、また翌週持って来て貰う約束をした。
翌週またその店に行きメス個体はと言うと、メスはいなかったと言われてしまった。
このパターンは、今までも経験した事がある。
メスを売りたくない方便と思われる。
一部のブリーダーは、自分の魚を他の人に殖やされるのが嫌なので、メスを出したがらないのだ。
この傾向は昔の方が強かった。
最近はほとんどなくなっていたのだが、まだこの考えのブリーダーも存在しているのだ。
頑なに種親を守るよりも、ペアで販売した方が数が売れ、商売にはなると思うのは自分だけであろうか。
と言う顛末で、今回のコラムではオスだけを紹介する事にしよう。
まあ、当てメスをしないだけ誠実だと考えたい。