2020年4月、コロナ禍のために活気のないチャトチャックに行くと、数件の店だけが魚の餌やりや世話のために店を開けていた。
流石に生き物を扱う店に、その世話などを認めない程無慈悲なタイ政府ではないようだ。
この辺りには敬虔な仏教徒であるタイ人らしさが垣間見える。
ベタを扱っている店が集まっているこの通りは 、もう顔なじみばかりなので、何か新しい魚とかがいればすぐに声がかかる。
この時も一軒の店から声がかかった。
4ヶ月ほど来ていないだけなのだが、その間に新しい品種がリリースされるのは、ベタの改良に関しては世界一のタイならではだろう。
この時は、このコラムでも数回前に紹介したゴールデン・トリプルクロスとギター・ブルーを紹介された。
ただし、ほぼ成魚サイズで、バッチリ色彩も出ているゴールデン・トリプルクロスに対し、ギター・ブルーはまだサイズも小さく、やっと色彩が出てきたぐらいであった。
そのため、当然ゴールデン・トリプルクロスの方を優先して購入し、コラムで紹介した次第である。
とは言え、ギター・ブルーの存在を忘れた訳ではなく、チャトチャックに行く度に、撮影できるかどうかチェックはしていた。
7月にには解除されたが、4月のタイは、夜間外出禁止令も発令され、県を越えての移動も禁止されていた。
いつもなら地方のフィールドに撮影に出かけているのだが、それも不可能で暇を持て余していた。
そんな状況だったので、待ち切れなくなって、いつもなら絶対に撮影しないサイズのギター・ブルーを購入して撮影する事にしたのである。
今回写真で紹介しているギター・ブルーのサイズは、成魚の半分程である。
写真を見てもらえばお分かりかと思うが、体に比べて目や頭部のサイズが大きく、幼さを隠しきれていない。
ただし、すでに特徴であるブルーの体色は現れているので、ちょっとフライング気味だが、今回はこのサイズで紹介させて頂きたい。
ヒレの伸長具合などはまだ完璧ではないが、本品種の魅力は十分伝わるであろう。
購入の際に、いつものようにこの魚の作出経緯などを尋ねてみた。
最近タイで流行りの同属他種とのハイブリッドではなく、ノーマルのギターをブリードしている際に現れた青味の強い個体を固定したそうである。
お店には10匹程の雄が並べられていたが、多少の発色の違いはあるものの固定率は高いように見受けられた。
それにしてもこのギターと呼ばれるスマラグディナの地域変異は、人に飼育される事により、非常に洗練された姿となっている事に感心させられる。
原種の生息場所であるタイ東北部ブンコンロン湖にワイルド個体を採集に行った事もあるが、ワイルド個体の体色やフォルムはブリード個体には敵わない。
ブリード個体として出回っているギターは既に完全なアクアリウム・ストレインで、ワイルドの魚とは別物と言っていいだろう。
色彩的にも改良され、既にギター・カッパーも作出されている。
これはこのコラムでも過去に紹介しているので、ご覧頂きたい。
その他にも、ギターには尾ビレがスペード状に伸長する品種もいたり、その振り幅は非常に広い。
それだけにベタのマニアには愛され、それが新品種へと繋がっているのであろう。
今回紹介したギター・ブルーは、リリース時にはメスも一緒にペアで販売されていた。
新品種の場合、メスをリリースしない動きも多いのだが、最初からペアでリリースと言う商売の姿勢には非常に好感を持てる。
このコラムでは何回も書いているが、ベタの場合ペアで販売しても、商売に悪影響を及ぼす事はほとんどないだろう。
逆にペアで販売しない事の悪影響の方が大きい事に、メスを出さないブリーダーは早く気が付いた方が良いと思われる。
話が逸れてしまったが、ギター・ブルーの飼育は、通常のスマラグディナとなんら変わらない。
非常に丈夫で飼育簡単である。
餌も行き餌からベタ用の人工飼料まで、何でもよく食べる。
まだ成魚の半分程のサイズだが、すでにオスは水面に泡巣を吹いていて、小さいながら繁殖も可能かと思われる。
繁殖に関しては、ノーマルのギターやスマラグディナに準ずれば良いだろう。
こうした改良品種は、その特徴のはっきりした個体を次世代に残しながら繁殖する事が大切である。
ぜひ美しいブルーの輝きを更に磨き上げて頂きたい。