今回ここで紹介するのは、昨年新種として記載されたばかりのオリジアス・ソンクラメンシスOryzias songkhramensisで、同属のミヌティルスO. minutillusやメコネンシスO. mekongensis、ペクトラリスO.pectoralisに近縁な小型種である。
分布域はタイ東北部からラオス中部にかけてのメコン川流域である。種小名は、本種が分布しているタイ東北部のメコン川水系のソンクラム川(Songkhram River)から名付けられている。
一見したところ同属のミヌティルスとかなり良く似ているが、本種は落ち着くと腹膜の辺りが黒く染まり、体側に黒いラインが入ったように見える。また胸びれの基部に小さな黒いスポットが入るのも特徴である。
ミヌティルスに見られる総排泄口付近の小さな黒いスポットが本種にはないので、その点でも判別は容易である。
本種が新種として記載されたのは2010年4月だが、それ以前からその存在は知られており、日本にも輸入されていたのはマニア以外にはあまり知られていないだろう。 その際には尾びれに赤の入らない汚いメコネンシスという可哀想な扱いであり、ミヌティルスとの同定間違いではないかという見解も出ていた。しかし、採集場所を確認したところ、間違いなくタイ東北部であり、これはミヌティルスとは分布域が明らかに異なるため、メコネンシスの地域変異だろうぐらいに片付けられていたのである。
過去に日本に輸入された際に、私は東京の輸入元のストック水槽で本種を見ていたのだが、薬品が入っており水に色が付いていた事、落ち着いていなかったため特徴的な色彩が出ていなかった事から、新種であることを見落としていた。
こうしたデリケートな小型魚は、自宅の水槽で落ち着いた状態で観察する事が非常に大切である。魚を見る際には先入観などを捨てなければいけないのだが、たまにこれを忘れてしまうので、反省しなければいけない。 昨年、本種の記載論文を入手したところ、そのタイやラオスの分布域は以前に数回撮影や採集に訪れていた場所である。本種のようなオリジアスは現地では水面を群れで泳いでいるため非常に確認しやすい。なので存在自体は知っていたが、いつもメコネンシスだろうと考えて、網で掬って確認する事を怠っていたのである。
昨年11月、やっとタイとラオスに行く機会があり、念願であった本種の生息場所の確認をするチャンスが訪れた。
まずはラオスのビエンチャンから探索を始め、郊外の水田地帯で本種の生息を確認できた。続いてノンカイからタイ側に入り、本種のホロタイプが採集されたRatanawapiへと向かう。すでに乾期が始まっており、水田はみんな乾いている。水を求めて探すと広大な湿地帯が現れた。ここなら間違いなく生息しているだろうという予感の通り、すぐに水面を泳ぐ本種の姿が眼に入った。 急いで網で掬い、ビニール袋に移し確認をする。間違いなくソンクラメンシスだ。
今回写真で紹介しているのは、この場所で採集した個体である。 イサンと呼ばれるタイ東北部には、ソンクラメンシスとメコネンシスの他、ペクトラリスも生息しているという情報がある。ペクトラリスはまだ自分の眼で確認していないので、これからの課題である。もしかするとこれら以外にも新しいオリジアスも存在しているかもしれない。機会あれば、続いて小型オリジアスの探索はしていきたい。
最後に飼育だが、日本の水道水ならば、塩素を抜けば調整する事もなく飼育でき、飼育は容易である。
餌はブラインシュリンプのような小型の餌が最適だが、フレーク場の餌を細かく砕いて与えてもよいだろう。状態良く飼育していれば、繁殖も容易である。産卵は午前中に行われる事が多く、体に比べやや大型の卵を腹部に付着させて泳ぐ様子も観察できるだろう。