このコラムでベンジャロン・イエローからそれを元に改良されたスプレンデンス・ブルーを紹介した流れで、さらにベンジャロン・イエローを使ったワイルド系の改良ベタを紹介しよう。初っ端から種明かしをしてしまっているが、今回紹介するのはスプレンデンス・イエローカッパーである。これはいつもお世話になっているチャトチャックのワイルド系のお店で、まだこの2ペアしかいないんだけどと見せられて、値段も聞かないうちに購入した魚である。これしかいないと言われると、今買っておかないとと言う強迫観念に襲われてしまう。まあ、これは多くの場合店主の営業トークだったりするのだが、納得の上でお買い上げである。
これとは違うが、今日持って来て店に並べたばかりで、まだ誰にも買われていないと聞くと、誰かに買われてしまう前に良い個体を抜いて置かなければと言う気持ちになり、これもまたお買い上げしてしまう羽目になる。タイの商売人もかなり人間心理を読んだ営業をするようになったものである。ベタをセレクトする場合、すでに水槽に誰かが購入済みの印などが書かれていると、急激に購買意欲が低下する。やはり撮影のモデルはトップの個体を使いたいという思う気持ちは昔から変わらない。湯水のようにお金が使えれば、苦労しなくてもトップレベルの魚を入手する事が可能であるが、貧乏カメラマンは自分の足で稼ぐしかないのが悲しいところである。
さて、この2ペア限定のスプレンデンス・イエローカッパー、お店で見た時からオス2匹の表現型が僅かに違う事が確認出来た。新しく紹介する品種の場合、最低2ペアは購入するのだが、2匹の表現型が異なるのはそれ自体が情報にもなるので歓迎である。このスプレンデンス・イエローカッパー、名前を聞いてその姿を見た時から、どのような交配で作出したのか自分なりに推測していた。最近、新しい改良品種を見ると、自分なりに交配方法を推測するのが楽しみになっている。まあ、ベタの交配クイズと言えるだろう。
今回のスプレンデンス・イエロカッパーの場合、直ぐにベンジャロン・イエローが交配に使われている事は分かったのだが、カッパー色をどこから持って来たのかが、分からなかった。カッパーと呼ばれる色彩を持つ魚は、プラカットだけではなく、ワイルド系でもスマラグディナ、マハチャイエンシス、エイリアンなどがいる。ここで前回のコラムで紹介したスプレンデンス・ブルーの交配例を思い出した。この読みは当たりで、店主に答えを聞くと、スマラグディナ・カッパーを交配に使ったそうである。前回紹介したスプレンデンス・ブルーや今回紹介しているスプレンデンス・イエローカッパーも、色彩はともかく体型その他は原種スプレンデンスそのものである。まあ、元々両種の体型はかなり似てはいるが……。
スプレンデンスにスマラグディナを交配した場合、基本となる色彩以外はあまり表現型に大きく影響しないようである。自分としては、スマラグディナの特徴である鰓蓋の鱗の質感等が遺伝しないのが不思議に思われるのであるが。あくまでスプレンデンスとしての表現型に拘り、選別淘汰しているなら納得である。今回はニューフェイスのリリースであるが、メスも一緒にペアで販売されていたので安心であった。
今回の滞在中、スマラグディナ・ギター・ジャイアントと言う素晴らしい魚を入手したのだが、オスのみでまだメスは販売されていなかったのが大変残念であった。新品種の場合、未だにペアでリリースされない事があるのが現状であるが、これは商売として改めるべき点だと個人的には考えている。スプレンデンス・イエローカッパーは、写真を見てもらえば分かるように万人受けする派手な色彩ではない。むしろ玄人好みのする色彩と言えるだろう。自分的にはかなり好みの魚だったので即買いであったが。スプレンデンス・イエローカッパーの交配に使われたベンジャロン・イエローとスマラグディナ・カッパーに関してはこのコラムの過去の記事をご覧頂きたい。