2023年秋、いつものようにタイへ渡航してすぐにチャトチャックのベタの店が集まっている区画へと足を運んだ。
すでに30年以上通っているこの薄汚れた区画に来るとホッとしてしまう。この場所を潰して再開発を行うと言う計画もあったようだが、幸いな事に今のところまだ実現していない。
サンデーマーケットやウィークエンドマーケットの別名でも有名なこの観光名所は、ゴタゴタした古臭い雰囲気が良いのであって、これが近代的な小綺麗なマーケットになってしまったら魅力半減である。
ソイ・パカットと呼ばれるベタのショップが集まっている区画があり、ここがバンコクでは自分のお気に入りであり、情報やモデルとなる魚を集めるメインの場所となっている。とは言え、ベタや観賞魚関係者の間では有名になり過ぎているところもあり、個人的には他にも秘蔵のネタ元はキープしてある。
このソイ・パカットには、2軒のワイルド系統のベタを中心に置いている店がある。商品が被る部分も大きいが、それぞれ独自色を出しており、完全に棲み分けが出来ているようである。
自分自身、この2軒のショップからは偏りなくネタを仕入れさせて貰っており、無くてはならない存在と言える。
今回も他のベタ屋は後回しで、このワイルド系のショップに顔を出すと、待っていましたとばかりにあるベタを勧められた。それが今回ここで紹介するエイリアン・サムライである。ただし、この魚はリリースされたばかりの新品種ではなく、2020年には既に作出されていた品種なのである。
当時はオスのみがリリースされており、価格的にもかなり高価だったため見逃した記憶がある。自分がベタを記録として撮影する場合、基本的には雌雄が揃っているペアの状態で複数を購入する。余程の事がない場合以外、オスのみで購入する事は少ない。このワイルド系の店主もそれを知っているため、今回のエイリアン・サムライはちゃんとメスも揃ったペアで販売可能だとアピールしてきた。今回店頭に並んでいるのは、エイリアン・サムライのグリーンとカッパーとシルバーであった。
同腹からこれらの表現型の個体が出現するのは、エイリアンの特徴とも言える。だが通常一緒に出てくるはずのブルーが並んでいなかったので、ブルーは?と尋ねてみたところ、出現率が低いのか非常にレアなのだそうである。
ノーマルのエイリアンでは、ブルーとグリーンは基本とも言える体色であるが、エイリアン・サムライではどうも異なっているようである。
このエイリアン・サムライを紹介する際に、どうしてもブルーも紹介したかったので、ブルーならオスだけでも良いのでとリクエストしておいたのだが、残念ながら結局昨年の滞在時には入手は出来なかった。
このエイリアン・サムライは、ここの店主のファームでブリーディングしているとの事なので、作出の経緯も尋ねてみた。答えはノーマルのエイリアンにプラカットのサムライを掛け合わせたと言う想定内のものであった。このプラカットのサムライと言うのは、恐らく最近サムライの名称で出回っているブラックドラゴンの事であろう。本来サムライと呼ばれるのは、ドラゴン系統の魚から一品物の様に出現する頭部のみにメタリックな色彩を纏った超レアな魚であった。記憶が確かならこのサムライと言う名称をプラカットに使い始めたたのは、チャトチャックのインターフィッシュと言うショップである。それからこのサムライは人気が高くなり高価に取引きされるようになったが、品種としての固定はできなかったので、より珍重されるようになった。
その後、やや似た表現型のブラックドラゴンやレッドドラゴンなどがサムライの商品名で流通するようになってしまったのである。このサムライに関しては、機会があれば一度このコラムでも紹介したいと思っている。話がかなり逸れてしまったが、エイリアンにプラカットのブラックドラゴンを交配した場合、どうしてもプラカットの血が強く、体型的にはプラカットになってしまう。そのためプラカットからの色彩は保ちつつ、エイリアンの細身の体型へと戻して行く交配が必須である。
このようにしてエイリアン・サムライは作出され、以前とは異なり量産化も出来たために比較的手頃な価格でリリースされる事になったのである。かなり固定されて来ているとは言え、まだサムライ体色?は安全に固定出来ていないようで、個体差が大きいのは確認できた。この辺りの宿題はそう難しくなさそうなので、近いうちに更に洗練されたエイリアン・サムライに出会える事だろう。その際は今回紹介できなかったブルーの個体もぜひ紹介したい。