毎年春の3月から5月ぐらいまでは、東南アジアに撮影に出かけるようにしている。その理由は、日本ではその時期スギ花粉が大量に飛散しているためである。タイやラオス、カンボジア、ミャンマーなどにはスギは自生していないので、スギ花粉に悩まされる事はないのだ。日本で花粉症のために辛い思いをしているよりも、海外のフィールドで撮影している方が百倍効率がいい。そのため、ここ10年程お花見はしておらず、桜の花はもっぱらテレビ鑑賞だけである。
今回その避暑ならぬ避スギ花粉中にタイに滞在していた際、日本の知人から1通のメールが届いた。タイでは今は携帯電話の電波の届く範囲ならどこでもWi-Fiを使える環境もでき、速度はのろいもののどこでもメールもネットも使える。バンコク市内はもちろん、ミャンマーやカンボジアの国境付近、ラオスならメコン川を挟んでタイの対岸付近ならWi-Fiの電波は拾う事ができる。便利な世の中になったものである。
話しが逸れてしまったが、メールを送って来たのは旧知のグッピー・マニアで、バンコクにある珍しいグッピーがいるらしいので探して欲しいとの事であった。そのグッピーとは、胸ビレが大きく発達したチャーン・グッピーだそうである。タイ語でチャーンとは象の事を言い、大きな胸ビレが象の耳のように見える事からそう名付けられている。元々は同じように胸ビレが大きく発達したベタに名付けられたものなのだが、同じ様な外見のグッピーにも使われているようだ。
バンコクで魚を探すならもちろん有名なサンデーマーケット、現地ではチャトチャックの名称の方が通りがいい。ここは巨大なマーケットで、ない商品はないと言う程ありとあらゆる商品が販売されている。この一角にペットだけを扱うエリアがあり、そこには数多くのアクアリウム・ショップが集まっている。グッピーの専門店もいくつかあり、その中の以前から知り合いのショップに行き、チャーン・グッピーの事を尋ねてみた。うちでも販売しているよ!と答えはあっけないものであった。残念ながらそのときは売り切れてしまっており、魚は見られなかったが、次の日曜に来れば、数ペアをブリーダーのところから持って来て置いておいてくれると約束してくれた。そういえば、この店は数年前にバルーン・グッピーの事を尋ねた際にも同じ答えだったなー。
約束の日、楽しみにそのショップに行くと、店長のお兄ちゃんはそこの水槽に入っていると指差して教えてくれた。どれどれと覗くと、確かに胸ビレの大きな雄のグッピーが泳いでいる。チャーン・ベタの場合、大きな胸ビレは白いので、チャーン・グッピーもそうかと思っていたら、どうも違うようだ。黒い胸ビレに多少白い部位があるぐらいだ。胸ビレの色彩は左右で異なっている個体の方が多いようだ。この際に見た品種はモザイクタキシードだけだったが、ブリーダーのところには他の品種もいるとの話しであった。雌個体ではこの特徴は顕著ではなく、多少胸ビレが黒っぽくなるぐらいである。
さて、気になるのはお値段である。尋ねたところやはりグッピーとしては破格の値段である。知り合いなので、安くしてもらっても、同じチャトチャックで売られているハイグレードのハーフムーン・ベタの5倍以上の値段だ。ここタイでは出始めの品種は比較的高価で販売される例が多い。ましてや繁殖が容易なグッピーでは半年で値段が崩れるのは必至だ。儲けられる時に儲けようという考えなのであろう。
チャーン・ベタが登場した際も、最初はかなり高価だったが、今では値段は十分の一ぐらいまで下がっている。しかも値段が下がっても、質は以前よりも全然良くなっている。チャーン・グッピーもそのような動きになっていくのであろう。自分の印象では、このチャーン・グッピーはまだ改良品種としては全然見完成品である。改良を続けていく事により、さらに魅力的になる可能性を秘めた品種と言えるだろう。1年後にどんな姿に化けているか楽しみである。