以前、このコラムでタイのチャーン・グッピーを紹介した。その後商業ルートでも日本に入荷し、ダンボ・グッピーの商業名で人気を博しているようだ。個人的なこだわりなのだが、ここではタイでの商業名であるチャーン・グッピーの名称で呼ばせていただきたい。
自分が知り合いのグッピー・マニアに頼まれてこのチャーン・グッピーを日本に持ち帰ったのは昨年の5月末。知人に渡すまでに何回か子供を産んだので、一腹は別なグッピー・マニアの友人に、もう一腹は自分の家で育成していた。
昨年夏頃になると、この魅力的なグッピーが日本人にも知られ、商業的な輸入も行われるようになった。秋ぐらいになると各観賞魚雑誌でも紹介され、多くの人に知られるようになったようである。
自分がタイで購入して持ち帰った個体は、すでに成魚で尾びれの形態には多少難があり、写真のモデルとしては満足のいく個体ではなかった。しかし、この親から採れた子供が育ち、成魚になったところ、親よりも特徴がはっきりとした綺麗な個体になった。という事で、育成している際に気付いた点と共にまたこのコラムで紹介しようと思った次第である。
我が家でグッピーを飼育するのは久々である。撮影のために持ち込む事はあっても、撮影後は返してしまい、本気で飼育する事はないからである。今回は親魚を知人に渡す前に子供が産まれてしまった。この稚魚達がどのように育っていくのかに興味があったため、一腹の稚魚は家に残して育てる事にしたのである。
我が家ではグッピーの餌はテトラミンのみ、他の餌は与えていない。生き餌を与えないため、成長は速くないが、2ヶ月を過ぎた頃から雄のヒレは大きくなり色彩も乗って来た。この時点ではまだ特徴である胸びれは普通の状態である。その後胸びれが多少黒っぽく色付いて来た。日に日に胸びれの黒い色彩は濃くなり、それと共にだんだんとサイズが大きくなってくる。
今回、うちで育てていた魚は20数匹いるのだが、1匹を覗いてすべての雄は親と同じように胸びれが黒く大きくなった。その1匹も全く胸びれに色がない訳ではなく、やや黒っぽい色彩は入っている。こうした点からすると、親魚の雌はちゃんとチャーン・グッピーの雌で、当て雌ではなかったようだ。
成長速度は個体差が大きく、もっとも早い個体が胸びれまで大きく発達した時点で、やっと尾びれが色付き胸びれが黒くなって来る個体もいた。
このグッピーにはハイドーサルという背びれが大きくなる遺伝子が入っているようで、雌雄共に背びれは伸長する。この特徴は雌で顕著である。ただしこれも個体差は大きいようだ。
友人に渡していたもう一腹の稚魚達もうちとほぼ同じように育ったようである。 まあ、同じ親から採れた子供なので当然といえば当然ではあるが。そこでは育成に生き餌をふんだんに与えているので、もうF3もたくさん産まれているそうである。
ネットを見ると、すでにこのグッピーは熱心なグッピー・マニアの元へと渡り、色々と他品種との交配も試みられているようである。
この魚の発信の地であるタイでもたぶん商業的な養殖体制が整い、今年はさらに数多くの魚が日本へ送られていくであろう。
国産の魚、タイからの養殖魚が揃い、どのような方向へ進むのか興味深いところである。
余談であるが、昨年10月にバンコクでアクアリウム・フェアがあり、その会場ではグッピーのコンテストも行われた。そこではかなり立派な胸びれのチャーン・グッピーも展示され、その中には黒だけではなく黄色と白が混ざったモザイク模様の胸びれのチャーン・グッピーも展示されていた。他にも日本のグッピー・マニアが興味を示すような個体もいくつか展示されており、ベタだけでなく、グッピーでもタイは見逃せない国と言えるだろう