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山崎浩二のSmall Beauty World

第19回「黄金のローチ」


タイ西部のカンチャナブリはミャンマーとの国境も近く、生物層的にも非常に興味深いエリアである。かなり以前からこの場所には頻繁に足を運んで撮影や生物の観察を行っている。
このエリアに行く際には、以前このコラムでも紹介したカニの町トンパプンを通過する。そこからさらに山間を走り、1時間程行くとホームグラウンドとも言えるサンクラブリという町に辿り着く。
トンパプンから別なルートで山に登る

タイ西部のカンチャナブリはミャンマーとの国境も近く、生物層的にも非常に興味深いエリアである。かなり以前からこの場所には頻繁に足を運んで撮影や生物の観察を行っている。
このエリアに行く際には、以前このコラムでも紹介したカニの町トンパプンを通過する。そこからさらに山間を走り、1時間程行くとホームグラウンドとも言えるサンクラブリという町に辿り着く。
トンパプンから別なルートで山に登ると、ピロックという小さな山間の町である。今回はこのピロックという場所が話しのメインとなる。

ピロックのバルテアータ・ローチの生息場所。日本でいう沢のような流れで、水温も低めである。暑い時期でも25℃は超えず、今回は15℃以下の水温であった。同じ場所にはジャイアント・ダニオの一種やドワーフスネークヘッドも生息している。

このピロックという場所に始めて来たのは十数年前、ここにバルテアータ・ローチ(Schistura balteata)の生息場所があるという事で撮影に訪れた。山間の渓流にかなりの密度でバルテアータ・ローチがいた記憶がある。しかし、この生息場所は不思議な事に他の魚はジャイアント・ダニオの1種(Devario. sp.)とドワーフ・スネークヘッド(Channna limbata)ぐらいしか見られない。
通常は自然が豊かな魚の多い川にはエビなどの姿も多いのだが、ここでは全く見られない。というように多くの種類の魚を見たい自分としては、ここはあまり足を向けるフィールドではなくなっていた。6年程前に日本のSカメラマンがタイに来た際に案内したぐらいだろうか?

昨年の春、久々にこの地を訪れた。確か、この生息場所は非常に水の透明度が良かった記憶がある。
最近、東南アジアの水中の様子を動画におさめている。テレビ用の本格的な動画ではなく、コンパクトデジカメでの動画であるが、これがパソコンなどで見るには十分な画質で撮れるのである。そこで透明度の良いバルテアータ・ローチの生息場所で再び撮影してみようという気分になったのだ。
以前に訪れた細流とは別な細流に行ったのだが、こちらの方が川幅が狭くて、撮影には好都合である。渓流の段差の溜まりを覗くと、バルテアータ・ローチがあちこちで縄張り争いをしている。昔と同じように生息密度はかなり濃いように思われた。
年月を経て訪れると、生息環境が激変したりしていてがっかりする事も多いのだが、ここではその心配は無用であった。時間が経つのも忘れて、夢中で水中撮影を楽しんだ。

同じ生息場所に生息しているジャイアント・ダニオの1種(Devario sp.)泳ぎは素早く、捕えるのは容易ではない。大型の個体では10cm程になる。ジャイアント・ダニオの仲間は地域変異や近縁種も多く興味深い。
水中で撮影したバルテアータ・ローチ(Schistura balteata)。この写真は昨年の春に撮影したもの。その時期は繁殖期ではないのか、体の赤味は薄かった。繁殖期には体後半の赤味が強くなり美しさが増す。

今年の1月にまたこのトンパプンのバルテアータ・ローチの生息場所を訪れる機械があった。熱帯であるタイは年中暑いと思われている方が多いかと思うが、12月から1月は日本の冬同様にこちらでもかなり気温は下がる。特に標高の高い山間部は尚更である。この時期の川の水温はたぶん15℃を切っているのではないだろうか?
水の中に足を浸けると、冷たくて長時間は無理なぐらいであった。この水温を自分で体感した際に、頭の中にはこの冷たい水にバルテアータ・ローチはいるのであろうか?とう不安が過った。
案の定、網を入れてみるとあれだけ生息密度が濃くて採集が楽だった魚が全然入って来ない。やはり水温の低い時期は活動が低下するのであろう。目を凝らして水中を覗いても、ほとんど姿が見えない。どうやらこの時期は撮影は無理そうだと思っていたら、一緒に来た相棒のトンがなにやら興奮して自分の事を呼んでいる。急いで行ってみると、網の中に見慣れない魚が!!よく見るとバルテアータ・ローチだが、全身が鮮やかな黄色である。体色が変化したのではなく、明らかに色彩変異個体である。長年魚を見て来たが、ドジョウ系の黄変種は日本のドジョウ以外では見た事がない。通常の体色の魚と比べてみるが、明らかに色彩が違う。

ドワーフ・スネークヘッド(Channa limbata)も同じ場所では数多く見かける。非常に活発な魚で、網に入ってもジャンプして逃げる事が多い。この場所の個体群は背びれのエッジの白がよく目立つ。本種は分布域が広く地域変異が多くて最近人気が高い。
黄金のバルテアータ・ローチ。背中に入る特徴的な黒斑は薄く残っている。タイでも黄金色の魚は縁起が良いとされ珍重される。タイの民話には黄金のライオン・フィッシュの話しもある程だ。

新年早々、黄金のバルテアータ・ローチが採集できるとはラッキーである。気を良くして採集を続けていると、午後になって日差しが出て水温が上がって来るに連れて魚の姿は増えて来た。やはり水温が低い際には石の下などに隠れてあまり活動しないようである。この黄金のバルテアータ・ローチは超VIP扱いで日本まで無事に持ち帰った。ヒレや体の擦れ傷が治ったら撮影しようと飼育していたのだが、残念ながらある日突然死んでしまった。当然まだ撮影はしていない。死ぬ前に撮影しておけばと後悔したのは、この仕事を始めてもう何回目であろうか?

ピロックで採集した小型のサワガニの一種。手と比べれば大きさは想像が付くであろう。最初はサワガニの小型個体かと思ったが、どうも違うようである。雄では片側のハサミがやや大きく発達している。
この小型のサワガニは、ピロック・ドワーフクラブと名付けた。ゲオセサルマの仲間を除けば、淡水性のカニでこのサイズの種類は非常に少ない。間違いなくサワガニ同様大卵型の種類であろう。同じ場所には大型になる青っぽいサワガニがもう1種生息している。

今回、この場所では、もうひとつ自分的には重要な発見があった。渓流の石を蹴って採集をしていたら小型のカニが網に入って来た。この場所ではカニの生息密度は低くて、あまり見かけない。岸近くの石の下に生息しているようで、その場所の石を起こすと見つかる。甲羅の幅が2cm程しかないので、最初はサワガニの子供かと思っていたのだが、どうも雰囲気が異なる。数匹採れたところでよく観察してみると、小さい割に雄個体のハサミは片側が大きく発達している。幼いカニではこのような雌雄の形態の差は見られないのが普通。という事はこのカニはこのサイズで成体と思われる。東南アジア各地でサワガニ含め淡水のカニは数多く見て来たが、このサイズで成体なのは、ゲオセサルマの仲間ぐらいである。このカニも大切に日本に持ち帰り飼育中なので、いずれ再報告ができるかもしれない。

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