早いものでそろそろ2024年も終わりに近い。今年のタイのベタシーンを振り返ってみると、小さな変化こそあれ大きなニュースはチャトチャックの火事ぐらいであった。
春と秋に恒例の取材でタイを訪れると、まずはワイルド系の店に行き、ニューフェイスがいないか尋ねるのであるが、それは自分だけではないようである。
ワイルド系のショップの店主の話によると、新しい品種がいないかクライアントに尋ねられる事が多く、その期待に答えようと様々な交配を行なっているようだ。
その努力の結果がショップに並ぶ訳であるが、その中でもヒット商品になり長年多くのマニアに愛される魚は決して多くはない。
ほとんどが試験的に作出され、短期間販売されただけで終わってしまう。自分は新品種のお勧めがあれば可能な限り購入し撮影しているが、たまにこれは絶対に人気が出ないなと感じてしまう魚もいる。
撮影したもののお蔵入りになった魚も数多いのである。
このコラムで紹介しているのは、まず間違いないと思われる万人受けする品種がほとんどである。こうした魚に日の目を当てるために、一度お蔵入りになった魚だけで特集を組んでみたいものだ。
このようにワイルド系のベタの中でもヒット商品は多くないのであるが、久々におっ!!と思う魚に巡り合った。
9月の初リリース直後はオスのみの販売でがっかりしていたが、10月末に再度タイを訪れるとペアでの販売が可能になっていた。そのニューフェイスはマハチャイ・サムライである。
サムライと言う名称に日本人としてはちょっと安直さを感じなくはないが、タイのベタ業界では高級な良い品質の魚と言うイメージがあるのか多用される。
かなりいい加減な使い方をされているサムライと言う品種名だが、元々はダーク系のボディに頭部付近に金属光沢のあるシルバーの鱗が目立つ魚に使われたものである。そういう意味では、以前に紹介したエイリアン・サムライや今回紹介するマハチャイ・サムライに対する命名は納得行くのだが、プラカットのブラックドラゴンなんかに安易に使われているのには抵抗がある。
タイ側で安易にこうした名称を使うと、それを買わされた品種の特徴を理解していないような日本の業者やブローカーがそのまま日本国内でも同じ名称を使うので、オークションやネットで使われている名称を見て苦笑してしまう事も多い。
サムライに関しては機会があれば改めて紹介させて貰うとして、今回の本題のマハチャイ・サムライに話を進めよう。
見る人が見ればすぐに分かるが、これはエイリアン・サムライの進化系である。
エイリアン・サムライのオスにマハチャイのメスを交配させて作出したそうであるが、元々のエイリアンはマハチャイにスティクトス、スマラグディナ・ギターを交配させて作った品種である。
このエイリアン、このように種間雑種なのであるが、その特徴の固定率の高さには定評がある。種間雑種を作っても繁殖力がなかったり、繁殖力があっても世代を経るうちに先祖返りや変化が現れるのが普通である。エイリアンではそれが全くなく、完全に固定された品種として完成されているのだ。このように不思議な固定率の高さのあるエイリアンであるが、もうタイのベタの世界では完全に定着していて様々な派生品種も作られている。その多くがプラカットやハーフムーン等のスプレンデンスとの交配であった。
マハチャイを交配させるといった発想は今までなかったようである。しかもエイリアン・サムライを交配に使った発想が見事である。このように交配させた魚からエイリアンの特徴である尾ビレのスポット模様を除き、マハチャイの尾ビレに近くなるように選抜交配していったそうだ。9月の初リリースの際はまだ尾ビレにエイリアン模様のあるマハチャイ・サムライもいて、これはどうエイリアン・サムライと違うのかと尋ねた覚えがある。10月末に再訪した際には、そこそこの数がショップに並んでおり、全ての個体で尾ビレのエイリアン模様は消えており、マハチャイの尾ビレに近づいていた。色彩に関しては、ノーマルのマハチャイに近い色彩の他、グリーン、カッパー、シルバー等エイリアンのバラエティと同じような色彩が見られる。
色彩に関しては、ノーマルのマハチャイに近い色彩の他、グリーン、カッパー、シルバー等エイリアンのバラエティと同じような色彩が見られる。当てメスでなく、ちゃんと同系統のメスと合わせてペアで販売されているが、写真を見ていただければ分かるようにメスの方はまだ尾ビレにエイリアン模様が残っている。オス同様にこの尾ビレのエイリアン模様が抜けたら、このマハチャイ・サムライの完成系なのであろう。このエイリアンの派生系が今後どのような方向に進化していくのか楽しみである。