タイのテナガエビというと一般の方はブルー・ロブスターとも呼ばれる食用の大型種オニテナガエビ(Macrobrachium rosenbergii)を思い浮かべる事だろう。本種はタイのレストランならほとんどの場所で食べる事が出来る程ポピュラーな存在だ。タイ旅行をした際に食べたという読者の方も多いのではないだろうか?
しかし、今回はオニテナガエビではなく、タイの川で魚を採集している際によく見かける小型種のテナガエビを中心に紹介することにしよう。
タイの河川で普通に見る事が出来るテナガエビは小型種が多い。なぜなのかは不明だが、小型で大卵型の種類の方が一般的なのである。
日本のテナガエビのほとんどは小卵型で、孵化した幼生は海まで下り変態した後にまた川を遡り淡水での生活を始める。一方タイのテナガエビは比較的大型の卵を産み、発達した段階で孵化しそのまま淡水での生活を始めるのだ。
文頭で紹介したオニテナガエビはタイのテナガエビとしては珍しく小卵型の種類である。タイでも小卵型の種類は河川の下流から汽水域に生息しているようだ。
日本で唯一の大卵型のテナガエビであるショキタテナガエビは西表島の浦内川の最上流域に生息している。
その他、日本でも沖縄の河川の上流域には大卵型のヌマエビ類も生息しており、生息場所に適応した生態を身に付けている。日本の種類と異なりタイの大卵型のテナガエビは、河川の上流域はもちろん結構下流域にも生息している。日本産とは異なる生態を身に付けているようだ。
自分達がタイで魚の採集をする場合、チャオプラヤ川やメコン川といった大河川で採集することは滅多にない。そのような場所は漁師が使う様な大きな網でないと採集も難しく、目的とする小型魚の採集には向かないのである。そのため比較的小型の川や沢のような場所で採集する事が多い。
このような場所では、必ず魚と一緒にテナガエビ類が網に入って来る。元々が淡水エビ・マニアなので、魚だけでなくこうしたエビ類も網に入って来たらちゃんとチェックしている。ただし、エビやカニは大事な魚の獲物の方に悪さする事も多いので、その採集が目的ではない場合はチェックだけしてリリースする事が多い。
タイの渓流には小型でオスのハサミ脚に細かい毛が密生している種類が数多く生息している。
多くの場合、ハサミ脚は左右で大きさや形態が異なっている。その多くはハサミ脚が大きく発達するので、ボクサーのグローブにみたてボクサー・シュリンプなどと呼ばれる。似た様な種類が多いのだが、ハサミ脚の形態や額角の形態に違いが見られるので、そこに注目して見分けるとよいだろう。
こうしたテナガエビは大卵型なので、小河川では大きな移動もなく、親と同じ場所で小エビも生息している。ところが、メコン川のような大きな河川では、ふ化した小エビが下流に流されてしまうのか、ある時期に小型のエビが群れをなして上流へと遡上する様子が見られるという。
タイではその時期にテレビでその様子が放映されることもある。こうした情報を聞き、長年その様子をカメラに納めたいと持っているのだが、未だにその機会には恵まれない。
こうした遡上中の小エビは大河川の岸寄りの流れの緩い場所を選んで登っていく。その途中を川漁師が待ち構えていて、食用のために小エビ達は捕獲される。どこでもエビはご馳走なのである。こうして採られた小エビ達は色々な方法で食用にされる。
時に美味なのは、丸いおせんべい状にかき揚げにされたものである。メコン川の岸辺のレストランなどで食すことができる。サクサクと美味しく、いつもタイの調味料ではなく、醤油や麺つゆで食したいと思ってしまう。このように大量に食用として捕獲されても資源量には何の問題もないようである。自然の力の懐の深さに改めて感動する。
ペット用としては、テナガエビ類はヌマエビと異なり魚にイタズラする事も多いので、人気はあまり高くないようだ。しかし、水槽内でも繁殖でき、小形の水槽でも飼えるこうした小型テナガエビはお勧めである。 ショップで見かける機会があったら、ぜひペアで飼育して頂きたい。魚とは違った魅力を見せてもらえることだろう