ご存知のように、昨年辺りからコイベタが日本では大人気になっている。そのため、タイに出掛けると言うと珍しい色彩やレアな個体を探すように頼まれる事が増えた。それ自体は、自分の仕事にとっては助かる面が多い。と言うのは、珍しい色彩やレアな個体はタイでも非常に高価なのだ。これを自腹で購入して撮影のモデルに使っていては、商売的には赤字になってしまう。儲けを乗せられなくても、そのまま購入した値段で知人達に譲れるなら、こちらの懐は痛まない。ただで貴重な個体を撮影できる訳である。レアな個体をタイのベタ屋を巡って探す事自体は全く苦にならないし、そのようにして見つけたレア個体を撮影するのも嫌いではない。ベタを頼んだ方も自分もウィン・ウィンなのだ。
頼まれるベタのリクエストとしては、アルビノというのが圧倒的に多い。様々な品種が作られているベタだが、まだアルビノだけは固定されていない。多くのベタを繁殖させると、その中からたまにアルビノの個体は出現する。30年程前から改良品種のベタを見ているが、昔からたまにブドウ眼のアルビノ個体は目にする機会はあった。それがなぜ品種として固定されるまでに至らないのだろうか?答えは視力と体質にある。ベタのアルビノは視力が良くないケースが非常に多い。そのためオスであっても闘争性がなく、2匹一緒にしてもヒレを広げてのフィンスプレッディングも行わない個体が多い。かろうじて目の前にきた餌は食べる事が出来るので、何とか成長した様な虚弱体質の魚が多いのだ。このようなアルビノ個体は、オスでも水面に泡巣を作る個体は非常に希である。泡巣を作らないのでは、繁殖は不可能である。ただし、希に視力も問題なく、泡巣も作る個体が見つかる事がある。この様な個体は貴重で、ぜひ繁殖に使いたい。
ただのアルビノだけでも探すのは難しいのだが、更にコイベタのアルビノと言うリクエストだと、さぞ難しいだろうと考えていた。ところが、バンコクのサンデーマーケットで知人のベタ・ブリーダーにアルビノの個体を頼んだら、意外と簡単に見つかってしまい拍子抜けであった。これは頼んだ方のネットワークが広かった事もあるが、コイベタ自体が盛んに繁殖が行われていた事も理由であろう。アルビノのベタが出現する確立が高くなっていたのである。また、コイベタ自体がアルビノが出現し易い因子を持っているのかもしれない。
コイベタのアルビノは、みんなブドウ眼のアルビノである。リアルレッドアイのアルビノは見た事がない。両方の眼がアルビノもいれば、片眼だけがアルビノのオッドアイ・タイプも多い。このオッドアイ・タイプはオレンジ色のコイベタで目にする機会が多い。
すでに何ペアかのコイベタのアルビノを知人に託した。あるペアは繁殖に成功した様なのだが、残念ながらアルビノは出現しなかったようである。ベタのアルビノの遺伝子は、通常のアルビノとは異なっているようだ。コイベタではないが、ファンシーのマーブル・タイプの魚のアルビノをタイのプロブリーダーが繁殖を手がけているような話しは耳にした。しかし、そのブリーダーからもまだアルビノはリリースされていない。やはり一筋縄ではいかないのであろう。しかし、プロもアマチュアもベタのアルビノの作出には情熱を注いでいる。
近い将来、固定されたタイプとしてベタのアルビノを目にする時代が来るであろう。