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山崎浩二のSmall Beauty World

第44回「マハチャイ系ハイブリッド・ベタ」

オス同士で逃走するマハチャイ・シルバー。同じシルバーでも手前の個体は全体に各ヒレの赤みが強い色彩をしている。このような色彩の違いは、代を重ねるにつれ固定することも可能だろう。

ここ数回このコラムでハイブリッドのワイルド改良系ベタや純系ワイルド改良系ベタを紹介してきた。元々自分はワイルド好きであるため、以前から数多くの改良品種があるベタの中でもプラカットに一番興味を持っている。そうしたワイルド好きには、元のワイルド・ベタの魅力を残しているこうした改良系のベタは正にツボであった。ベタの本場であるタイでも、最近のワイルド・ベタの人気と共に、こうした改良系ワイルド・ベタの人気も高まりつつある。種類によっては元の原種よりも価格的に高価な種類さえある。以前紹介したトリプルクロスなどは需要に供給が追いつかず、入手は順番待ち状態になっている。

マハチャイ・グリーンと呼ばれている改良品種。純粋なマハチャイエンシスとは体型が異なっている。体側のメタリックグリーンの色彩は他種との交配により、更に魅力的になっている。たぶん、プラカットの血がかなり昔に入れられたのだと推測できる。

こうしたワイルド・ベタの改良は、スプレンデンス・グループ同士の交配が中心である。自分の情報不足かもしれないが、ワイルド・ベタでも他のグループではハイブリッドの報告はほとんど聞いたことがない。スプレンデンス、インベリス、スマラグディナ、マハチャイエンシス、スティクトス、シャムオリエンタリスを含むスプレンデンス・グループのワイルド・ベタは比較的容易に交配可能であり、その子孫も繁殖可能な事が多い。このような種間雑種は今に始まった事ではなく、古くからベタの愛好家達の間では試みられていた。今の若い世代では知る人は少ないだろうが、ドイツの偉大なスペシャリストである故シュミット・フォッケ氏がスプレンデンスとインベリスを交配して作ったネオン・ベタがその始まりかと思われる。それに刺激され、自分も30年程昔にメタリカと呼ばれる系統のベタにインベリスを交配した事がある。結果は物凄く綺麗なインベリスに酷似したベタが生まれたが、その当時はハイブリッドのベタの市場など全くなく、逆にワイルド・ベタの市場を混乱させるだけなので、写真に記録するだけで、その魚を世に出すことはなかった。

ダブルクロスとも呼ばれ、マハチャイエンシスとスマラグディナの交配から作出されたメタリックブルーが魅力的な魚。多数の個体を確認したが、体型や色彩などのの特徴の固定度は高い。
ダブルクロスのメス個体。メスでもしっかりとメタリックブルーの色彩の片鱗を見せている。尾ビレや尻ビレに入るスポットや模様はマハチャイエンシスの特徴を受け継いでいるようだ。

時代も変わり、多数のワイルド・ベタも新たに記載され、現在では人々のワイルド・ベタに対する知識もかなり高まっている。自分個人の考えだが、このような状況なら、ワイルド系のハイブリッド・ベタも正直にその由来を情報として伝えた上で改良品種として紹介するのは悪くはないだろう。危惧するのは、交配の情報等がなかったり、偽りや誤った情報で魚が出回ってしまう事である。このような魚が出回ってしまうと、せっかく盛り上がったワイルド・ベタの市場と共に、ベタの業界が衰退してしまいかねない。以前紹介したトリプルクロスがタイのベタ市場で人気を博し、高値で取引され品薄の状態となっている一方、それに刺激されたのか、最近バンコクでも交配の情報もはっきりしないハイブリッドが多少出回るようになっているのが気になるところだ。

さて、今回は前置きが長くなってしまったが、こうしたワイルド系改良ベタの交配のベースには、マハチャイエンシスが使われるケースが多いようである。たぶんマハチャイエンシスのメタリックな色彩が交配することにより更に目立つようになるためであろう。今回はこのマハチャイ系のハイブリッドを中心に紹介しよう。
まずは、かなり前からバンコクの市場に流通しているマハチャイ・グリーンである。この魚はハイブリッドではないと思っているマニアが多いようであるが、体型や色彩などから考察すると、どこかでスプレンデンスの血が入っていると思われる。マハチャイ・ブルーと呼ばれる魚もいるが、これも同系統の色違いか、ここから派生した魚と思われる。これらは、更に交配のベースに使われている事が多いようで、トリプルクロスの作出にも使われている。

マハチャイ・シルバーは、交配にプラカットを使ったにも関わらず、マハチャイ特有の細身の体型を維持している。これは作出者が目標を持って、選別淘汰を行った賜物であろう。
マハチャイ・シルバーのグリーン系のメス個体。
マハチャイ・シルバーのブルー系のメス個体。

ダブルクロスとも呼ばれているメタリックブルーが美しい改良品種は、マハチャイ・ブルーとスマラグディナの交配から作出したと言う話で、2017年春にリリースされた新品種であるが、尋ねる人によって情報が異なっており、交配の詳細が不明である。自分はブルーの個体しか確認していないが、グリーン系の魚もいると言う話である。ブルー系とグリーン系の魚が存在するというのは、トリプルクロスと同様のようだ。この魚は1ペア日本に持ち帰って来たので、自分で繁殖させてみるつもりである。その子供の表現型を見れば、どのような交配をしたのか、多少確認もできるだろう。

マハチャイ・シルバーと言う改良品種も以前からたまに市場に出回っている。これはマハチャイエンシスにスチール系のプラカットを交配して作出したようである。しかし、2017年6月に自分が入手した2ペアでは、オスの色彩が同じシルバーではなく、片方の個体では、やや赤みが強かった。またメスは、ブルー系とグリーン系がおり、こうした点から考察するとまだ品種としての個程度はそう高くないと思われる。しかし、体型、色彩共に魅力的なので、今後の固定の方向によっては人気も高まるだろう。

インベリスとマハチャイエンシスの交配と思われるハイブリッド・ベタ。体型や色彩に両種の特徴が見られるが、特に新しい特徴もなく中途半端な印象を受ける。マハチャイ・グリーンとして売られていた個体に混ざっていたのだが、このようなハイブリッドが間違って流通しないように注意が必要である。

ある店では、マハチャイ・グリーンとして販売されていたが、明らかに異なる雰囲気をしている魚を見つけた。最初は小さくてまだ特徴がはっきりしなかったが、買い込むに連れて特徴が見えてきた。尻ビレや尾ビレに入る特徴的な赤い色彩から考察すると、間違いなくインベリスの血が入っている。その他マハチャイエンシスの特徴も有するので、マハチャイエンシスとインベリスのハイブリッドであろう。個人的には中途半端な特徴が魅力的とは思えなかったし、明らかに間違った名称で販売されているのはちょっといただけない。こうした魚の流通がせっかくのワイルド系改良ベタの普及を妨げてしまうのである。目標もなく、闇雲に交配しても高値で販売できるような魅力的な品種の作出は無理である。タイのブリーダー達にもそこは理解して頂きたいものだ。

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