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山崎浩二のSmall Beauty World

第46回「オリジアス・メコネンシス」

タイ東北部ウドン産のオリジアス・メコネンシスの闘争中のオス。平常時と異なり、尾びれの上下の赤の内側に黒いラインがくっきりと入る。また胸ビレの基部にもはっきりと黒斑が現れる。

見慣れた魚でも飼い込んでいると新たな発見は多々あるものだ。それが飼育の醍醐味でもある。1年程前にタイの東北部ウドンで採集して来たオリジアス・メコネンシスで新たな発見があったので、ここで紹介しよう。

日本のメダカを含むオリジアス属はアジアを中心に分布しているグループで、多くの種類を含んでいる。最近でも新たな種類が記載されている興味深い属である。この属名のオリジアスは、稲を意味するオリザから付けられている。本属の多くの種類が、水田やその周辺を生息域としており、稲と密接に関係している事がその由来である。
その中でも自分が最も興味があるのは、タイやラオスに分布している小型のオリジアス属の魚だ。タイメダカと呼ばれるオリジアス・ミヌティルス(Oryzias minutilus)、メコンメダカと呼ばれるオリジアス・メコネンシス(Oryzias mekongensis)、以前このコラムでも紹介した事のあるオリジアス・ソンクラメンシス(Oryzias songkhramensis)、オリジアス・ペクトラリス(Orizias pectoralis)などが記載されているが、自分がフィールドで見た感じだと、研究が進めばまだまだ細分化され新種が増えると思われる。

タイ東北部ウドンの町外れのオリジアス・メコネンシスの生息場所。他にはベタ・スマラグディナ、トリコプシス・シャレリー、ボララス・ミクロス、ラスボラ・ルブロドーサリス、ラスボラ・スピロセルカなども生息している。

このコラムの第1回でオリジアス・ソンクラメンシスを紹介した際に、姿形が似ているこの小型オリジアスは、屋外で網で掬ったり、ビニール袋に入れて見ただけでは、種類の同定は難しい事を学んだ。それからはできるだけ持ち帰り水槽に入れて観察するようにしている。そうすれば、見逃しがちな細部の違いなどにも注意がいくし、状態が最適な際にだけ見せてくれる色彩も見る事ができる。

2016年の10月、タイの東北部にベタ・スマラグデイナ・ギターを確認しに行った記事はここのコラムでも紹介済みである。その帰りにちょっと寄り道をして、ウドンと呼ばれるラオスとの国境の町へ寄って来た。ここでの目的はもちろんベタ・スマラグディナもあったが、主目的はボララス・ミクロス(Boraras micros)の採集であった。

ここ数年、ほぼ観賞魚ルートでの入荷はなくなってしまった幻のボララスである。自分の相棒のトンが、以前にここウドンで採集した事を覚えていたので、そこに案内してもらった。野生の睡蓮が美しい群生を見せるその湿地で、まず目に入って来たのは、水面を群れで泳ぐオリジアス・メコネンシスであった。網を入れないと生息しているかどうか分からないベタやラスボラなどと違い、オリジアスの仲間は水面近くを泳いでいるので、目に付きやすいのだ。オリジアスは採集も簡単そうなので、採集は後回し。まずはベタ・スマラグディナから採集を始めた。ここウドンのスマラグディナはグリーンが美しく、腹ビレの赤が鮮やかなのが印象的である。トリコプシス・シャレリーも網に入って来たが、ノーマルな体色で、明らかにブンコンロン湖のとは別物である。

オリジアス・メコネンシスのペア。オスは平常時でも尾びれの上下の赤はよく目立つが、メスでは尾びれの基部はやや赤くなる程度である。発情したオスは尾びれの赤の内側に黒がはっきり入り、背びれの黒みも増す。ぜひ飼育下でこの変化を観察してみて欲しい。
ボララス・ミクロスはボララス属の中で最小の種類である。昨年10月に採集した個体を1年飼い込み現在でも健在だが、サイズ色彩共にほとんど変化もなかった。MAXサイズで1cmほどであろうか?生息場所では、やや深みを好んで生息している。

主目的のボララス・ミクロスは岸から網を入れただけでは採集は不可能である。彼らは水の底近くに生息しているので、水に腰までつかり、水底を探るように網を入れないと採集できないのだ。それでもひと網で数匹しか入らず、100匹近くを集めるには、かなりの時間を有する。その採集効率の悪さを知ると、なぜ観賞魚ルートでの入荷がなくなったのか理解できた。大きさが小さく東南アジア産と言うだけで、安価な設定をされているのでは、こうしたボララス・ミクロスやオリジアス・メコネンシスはビジネスとして全く美味しさがないので、採集するサプライヤーがいなくなってしまったのだろう。こうした小型の魚は、大型魚以上に繊細な採集やケアが必要で手間がかかるのである。それを評価して貰えないのでは、続ける人がいなくなって当然である。

さて余談が長くなってしまったが、トンに難しいミクロスの採集は任せ、自分は本業である撮影に取り掛かった。この場所の水はやや黄色味がかかっているが、以外と浮遊物なども少なく透明度が高い。ここなら水中撮影も可能だ。防水仕様のコンデジで、水中の撮影やメコネンシスの動画などを撮影していた。ところが、撮影しているうちに、異常事態が発生!コンデジの画面がモノクロになりノイズが入るようになってしまった。確認するとどこかから浸水して、カメラ内部にまで水が入ってしまっていた。これでは電気製品は終わりである。そのうち全く稼動さえしなくなってしまった。撮影データの入ったSDカードは無事だったのが何よりである。沈したコンデジは裏蓋を開け、日向で干した後、扇風機で内部を一晩乾かしたら起動するようになったが、信用できないので新たなコンデジを購入する羽目になった。

同じウドン産の平常時のオリジアス・メコネンシスのオス。尾びれの上下が赤く色づくだけで、黒い色彩は全く確認できない。また胸ビレ基部の黒いスポットも不明瞭で、背びれの黒い色素胞も見当たらない。
オリジアス・メコネンシスの平常時のメス個体。オスとは体型でも区別は可能だが、尾びれに薄っすらとしか赤が入らないので、そこを見れば一目瞭然である。雌雄がいれば繁殖は難しくないが、一回に数個しか産卵しないので、大量の繁殖は難しい。これが本種があまり流通しない理由でもある。

このようなドタバタもあったが、無事にバンコクまでミクロスやメコネンシスを持ち帰り、帰国までホテルの部屋でVIP扱いで飼育していた。餌はテトラミンを細かくしたものを与えていたが、ミクロスはほとんど変化なしだったが、メコネンシスは日に日に大きくなって、尾びれの赤も目立つようになって来た。
自分の認識では、尾びれの上下に赤だけが入るのがメコネンシスで、その赤の内側に太く黒が入るのがペクトラリスと思っていた。実際、サンデーマーケットでは、たまに赤黒の目立つオリジアスも販売されており、産地は不明だが、これがペクトラリスだと思っていた。ところが、今回ウドンで採集してきたメコネンシスは、平常時こそ尾びれに赤しか入っていないが、発情時や闘争時になるとその赤の内側にはっきりと黒が入るのである。今までメコネンシスを何度も飼育していたが、これには気付かなかった。そうなると、メコネンシスとペクトラリスの境界が???になってしまう。もう一度、ウドンのメコネンシスだけではなく、タイ東北部各地のメコネンシスを確認してみたくなってしまった。と言う事で、今年も10月にまたタイとラオス方面に出掛けるので、小型オリジアスの再チェックが課題である。ちなみに、昨年大切に日本に持ち帰ったメコネンシスは友人二人の所に里子に出し、大切にキープされている。大量には殖えないので、市場に出回る事は残念ながらなさそうである。

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