2018年の3月、毎年恒例のスギ花粉からの逃避のためにタイを訪れた。
すぐに花粉症の症状がなくなる訳ではないが、1週間もすればあれだけ辛かった眼の痒みや鼻詰まりなどが、嘘のように解消される。
やはりこの時期はスギのない外国で過ごすに限る。
ネットさえ繋がっていれば、自分のような仕事はどこにいても可能である。
さて、タイに着いたら、すぐにチャトチャックと呼ばれるサンデーマーケットに魚を見に行くのが恒例だ。
寒い日本と違い、暑さ真っ只中のバンコクは、午前中から30℃を超えている。 この暑さの中、ベタを見に行くのは辛いものもあるのだが、久しぶりだとこの暑さも心地良く感じるから不思議なものだ。
いつものベタ屋が集中している辺りに行くと、みんなから挨拶される。 十数年この辺りをウロウロしていれば、もうみんな顔馴染みである。
変わったベタがいれば、すぐに声かけてもらえるので、嬉しい限りである。 今回は、すぐにこのコラムで紹介したいベタが2つ見つかった。 ひとつは、タイ人達がニモ・ニモと呼んでいるコイベタのイエロー・オレンジ系と思われるベタである。
もうひとつは、ワイルドクロス系のベタで、これは次回のこのコラムで紹介しよう。
ニモと呼ばれるベタは、もちろんその名前の由来はディズニー映画のファインディング・ニモの主人公カクレクマノミのニモであろう。 ベタ屋の英語表記もNEMOとなっているので、間違いないだろう。
確かに、イエローとオレンジ色が特徴となっているこのカラフルなベタは、クマノミの配色に似ていない事はない。 しかし、この名称は商標にうるさいディズニーにすれば、抗議の対象となりそうである。
チャーンと呼ばれるベタにもダンボと言う名称や、プラティにはミッキーマウスと言う名称も使われているが、観賞魚業界はディズニーには干渉しなくても良いぐらいの小さい業界と思われているのかもしれない。 このニモと呼ばれるベタ、今年になって急に現れたものではない。
2015年の11月にタイで行われたベタ・コンテストの際に、そのプロト・タイプとも思われる魚を見ている。 その際に、非常に魅力的だったので、記憶に残っている。
昨年、秋頃からもニモと言う名称は使われていなかったが、チャトチャックで少数が高額で販売されていたのを確認している。 ほぼ完成の域に達していたコイベタだが、タイのブリーダー達はそこに黄色やオレンジ、ブルーなどの色彩を加え、更にカラフルにする方向に改良を進めたようである。 昨年、ニモを見た際には5カラーだの7カラーと言った名称であったが、誰もが親しめる名称を付けられたのは、この魚が流行る要因にもなるだろう。 後でネットでこのベタの事を多少調べてみたのだが、ニモと言う名称の他にキャンディーという呼び名も使われているようだ。 確かにこちらの名称も、カラフルな体色と良く似合っているように感じる。 ニモとキャンディーと言う名称のどちらが一般に受けいられるか、しばらく動向を見てみたい。
聞いたところによると、このニモを最初に作出したのは、ラヨーン在住のブリーダーだそうだ。 コイベタもラヨーンのブリーダーが最初に作出した魚だし、ラヨーンのブリーダーはセンスのある方がそろっているようである。
可愛らしく、美しいこのニモ・ベタだが、ひとつ問題がある。 まだ価格的に非常に高価なのである。 並みのプラカットの10倍から30倍の価格である。
仕事として取り組んでいる日本人の自分でさえ、ハイクオリティのニモには手を出せない状態である。
物価的には日本の1/3~1/5のタイで、この価格は驚きとも言える。 タイも随分と裕福になったと感じる。 さすがにこの価格では、そう動かないと思われたが、良い魚はすぐに売れてしまっているようなのだ。
今は低迷している日本の観賞魚業界も、このような高価な魚がバンバン売れるような状況になって欲しいものである。 しかし、このニモは何故こんなに高価なのであろうか? これは、繁殖しても、このニモ特有の色彩の個体を得られる確率が低いためと思われる。 ただし、いつものタイのベタ業界の動きを見ていて、これは出始めの今だけのバブル値段であろう。
あるベタのブリーダーは、これはタイゴーストと呼ばれるザリガニの動きと似ていると言っていた。 最初こそ、皆が高価格で取引をしていたが、市場がダブついて一気に価格が暴落したのである。 一時期はチャトチャックのどこもかしこもゴースト・ザリガニを扱っていたが、今では見る影もない。
ニモもこれと同じで、半年もすれば、一般の方にも手を出せる手頃な価格に落ち着くはずである。 実際のところ、この半月程の動きを見ていても、暴落とは言わないが、価格は確実に下がって来ている。
一般の人も楽しむには、もう少々値段が落ち着く方が望ましい。 ただし、暴落すると皆がそっぽを向いてしまうので、難しいところではある。
今のところ、日本の市場での価格に全く合わないので、そう多くは輸入されていないと思われる。 しかし、値段が落ち着くにつれ、この魅力的なベタは日本の市場でも人気を博すに違いない。 日本でこの魅力的なベタを楽しむには、少々時間が必要なようだ。