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山崎浩二のSmall Beauty World

第52回「ニモ(NEMO)と呼ばれるベタ」

ニモと呼ばれる典型的な色彩をしたオス個体。オレンジ色を基調とした体色に黒や白と言う配色は、カクレクマノミを連想させるため、この呼び名が付けられたようだ。しかし、コイベタ同様色彩や模様は千差万別で、2匹と同じ魚はいない。

2018年の3月、毎年恒例のスギ花粉からの逃避のためにタイを訪れた。
すぐに花粉症の症状がなくなる訳ではないが、1週間もすればあれだけ辛かった眼の痒みや鼻詰まりなどが、嘘のように解消される。
やはりこの時期はスギのない外国で過ごすに限る。
ネットさえ繋がっていれば、自分のような仕事はどこにいても可能である。
さて、タイに着いたら、すぐにチャトチャックと呼ばれるサンデーマーケットに魚を見に行くのが恒例だ。
寒い日本と違い、暑さ真っ只中のバンコクは、午前中から30℃を超えている。 この暑さの中、ベタを見に行くのは辛いものもあるのだが、久しぶりだとこの暑さも心地良く感じるから不思議なものだ。
いつものベタ屋が集中している辺りに行くと、みんなから挨拶される。 十数年この辺りをウロウロしていれば、もうみんな顔馴染みである。

青い尾びれが印象的で、体色は赤、黒、白、青、黄色と多色で飾られ、非常にカラフルなイメージの個体である。このような色彩はニモと呼ぶよりもキャンディーと言う呼び名の方が似合っているように感じる。

変わったベタがいれば、すぐに声かけてもらえるので、嬉しい限りである。 今回は、すぐにこのコラムで紹介したいベタが2つ見つかった。 ひとつは、タイ人達がニモ・ニモと呼んでいるコイベタのイエロー・オレンジ系と思われるベタである。

もうひとつは、ワイルドクロス系のベタで、これは次回のこのコラムで紹介しよう。
ニモと呼ばれるベタは、もちろんその名前の由来はディズニー映画のファインディング・ニモの主人公カクレクマノミのニモであろう。 ベタ屋の英語表記もNEMOとなっているので、間違いないだろう。
確かに、イエローとオレンジ色が特徴となっているこのカラフルなベタは、クマノミの配色に似ていない事はない。 しかし、この名称は商標にうるさいディズニーにすれば、抗議の対象となりそうである。

オレンジベースの体にどのようにブラックやレッドの色彩がバランス良く入るかによって、ニモのグレードは変わってくる。これはブリーダーがコントロールし難い要素なので、ニモは高価なのであろう。コイベタと同じように、同じパターンは2匹といない。
ニモの中には、光沢のある青白い鱗を持つ魚も多い。この鱗がバランス良く全身に散りばめられた個体はギャラクシーと呼ばれ、さらにハイグレードとされる。

チャーンと呼ばれるベタにもダンボと言う名称や、プラティにはミッキーマウスと言う名称も使われているが、観賞魚業界はディズニーには干渉しなくても良いぐらいの小さい業界と思われているのかもしれない。 このニモと呼ばれるベタ、今年になって急に現れたものではない。
2015年の11月にタイで行われたベタ・コンテストの際に、そのプロト・タイプとも思われる魚を見ている。 その際に、非常に魅力的だったので、記憶に残っている。

体側とヒレにイレギュラーに赤や黒の色彩が入ったニモのオス個体。体側とヒレの色彩のパターンは2匹と同じ個体はいないので、気に入った個体を探す楽しみも大きい。この個体では、胸ビレも黒く色付いている。
普通のコイベタ同様に肌色ベースの体色のニモ。体やヒレには様々な色彩が散りばめられ、非常に派手な印象を受ける。特に黄色の色彩がアクセントとなっている。この個体はニモと呼ぶよりも、キャンディーと呼んだ方が合っているような感じである。

昨年、秋頃からもニモと言う名称は使われていなかったが、チャトチャックで少数が高額で販売されていたのを確認している。 ほぼ完成の域に達していたコイベタだが、タイのブリーダー達はそこに黄色やオレンジ、ブルーなどの色彩を加え、更にカラフルにする方向に改良を進めたようである。 昨年、ニモを見た際には5カラーだの7カラーと言った名称であったが、誰もが親しめる名称を付けられたのは、この魚が流行る要因にもなるだろう。 後でネットでこのベタの事を多少調べてみたのだが、ニモと言う名称の他にキャンディーという呼び名も使われているようだ。 確かにこちらの名称も、カラフルな体色と良く似合っているように感じる。 ニモとキャンディーと言う名称のどちらが一般に受けいられるか、しばらく動向を見てみたい。

聞いたところによると、このニモを最初に作出したのは、ラヨーン在住のブリーダーだそうだ。 コイベタもラヨーンのブリーダーが最初に作出した魚だし、ラヨーンのブリーダーはセンスのある方がそろっているようである。

これも肌色がベースとなっているニモである。このような魚を見ると、コイベタをベースにニモが作出されたのが理解できるだろう。イエロー、オレンジ、レッドの配色が魅力的である。ニモのほとんどのオスは闘争性も高く、よくフィンスプレディングしてくれる。
ガラス細工のように、肌色ベースの体色に、ブラック、レッド、イエローのスポットが散りばめられた魅力的な個体。色彩のバランス次第でさらにハイグレードな魚となるであろう。日本人に好まれそうな色彩と言える。

可愛らしく、美しいこのニモ・ベタだが、ひとつ問題がある。 まだ価格的に非常に高価なのである。 並みのプラカットの10倍から30倍の価格である。
仕事として取り組んでいる日本人の自分でさえ、ハイクオリティのニモには手を出せない状態である。
物価的には日本の1/3~1/5のタイで、この価格は驚きとも言える。 タイも随分と裕福になったと感じる。 さすがにこの価格では、そう動かないと思われたが、良い魚はすぐに売れてしまっているようなのだ。

今は低迷している日本の観賞魚業界も、このような高価な魚がバンバン売れるような状況になって欲しいものである。 しかし、このニモは何故こんなに高価なのであろうか? これは、繁殖しても、このニモ特有の色彩の個体を得られる確率が低いためと思われる。 ただし、いつものタイのベタ業界の動きを見ていて、これは出始めの今だけのバブル値段であろう。

ニモのメスもまだ少数ではあるが、ショップで販売されている。
やはり価格はオス同様に高価である。
色彩的には全くオスと同様のパターンであり、オレンジ、レッド、イエローの配色が美しい。

あるベタのブリーダーは、これはタイゴーストと呼ばれるザリガニの動きと似ていると言っていた。 最初こそ、皆が高価格で取引をしていたが、市場がダブついて一気に価格が暴落したのである。 一時期はチャトチャックのどこもかしこもゴースト・ザリガニを扱っていたが、今では見る影もない。
ニモもこれと同じで、半年もすれば、一般の方にも手を出せる手頃な価格に落ち着くはずである。 実際のところ、この半月程の動きを見ていても、暴落とは言わないが、価格は確実に下がって来ている。

一般の人も楽しむには、もう少々値段が落ち着く方が望ましい。 ただし、暴落すると皆がそっぽを向いてしまうので、難しいところではある。
今のところ、日本の市場での価格に全く合わないので、そう多くは輸入されていないと思われる。 しかし、値段が落ち着くにつれ、この魅力的なベタは日本の市場でも人気を博すに違いない。 日本でこの魅力的なベタを楽しむには、少々時間が必要なようだ。

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