2018年3月にタイに来て、最も注目すべきベタは、前回のこのコラムで紹介したニモ・ベタであった。
このニモ・ベタは派手過ぎてインパクトが強いが、自分的にはもうひとつ気になるベタがいた。
ワイルド・ベタのクロス系なので、そう派手さはないが、ワイルド・ベタ好きにはかなり受けるであろう形質を持ったベタである。
それは、以前このコラムでも紹介したトリプルクロスの進化系とも言えるベタで、尾ビレがラウンドテールではなく見事なスペードテールになっているのだ。 この魚の解説の前にひとつ解説しておきたい事がある。
最近、タイでも流行っている種間雑種の改良品種のベタの呼び名についてである。タイでは、これらの魚にそのままハイブリッドだのエイリアンだのと言う商品名を付けている。自分的には、観賞魚の世界ではハイブリッドと言う呼び名が、どことなく純粋ではない1ランク落ちるイメージに使われているようで、あまり使いたくない。
そこで交配と言う意味のあるクロスと言う言葉を使うようにしてきた。
2種類の種間雑種ならダブルクロス、3種類ならトリプルクロスと言う具合である。
ワイルド・ベタ同士を掛け合わせた魚は、ワイルドクロス系と総称している。この方が言葉からも交配の意味合いを読み取りやすいだろうという意図もある。未だにタイではまともな名称が付けられていないために苦肉の策である。まあ、こう言った名称は、浸透しなければ意味がない事なので、あとは市場の動きに任せるしかないのだが。
さて、前置きが長くなってしまったが、今回紹介するのは、スマラグディナ・ギターとマハチャイエンシス、スティクトスの3種類を掛け合わせた品種の進化系である。 以前から市場に出回っているトリプルクロスには数系統あり、色彩や体型等に多少の違いが見られる。 中にはマハチャイエンシスの血筋が濃いのか、尾ビレの中央部がやや伸長気味の魚も見られた。
また、老成した魚の中に尾ビレの中央部が伸長する魚もいたのは確認している。 しかし、今回見た魚の様にサイズが小さいにもかかわらず、ここまで見事にスペード状に尾ビレが伸長した魚は見た事がない。
同じショップにいた複数の魚を見ると、同じ様な形質の魚がかなりおり、これは1匹だけの形質と言うよりも、系統的な特徴と思われた。 不思議な事なのだが、以前からベタに関しては、ワイルドであろうが改良品種であろうが、マニアはスペードテールの魚を非常に好み珍重する傾向がある。
最近では、スプレンデンスやスマラグディナでも、スペードテールを持つワイルドの系統が見つかっており、非常に人気が高い。 そう言う自分もスペードテールの魚には何故か惹かれてしまう。
日本にはまだ紹介されていないと思われるが、ベタ・スマラグディナ・ギターの中にも、見事に尾ビレがスペード状に伸長する系統が知られている。 これはいずれ良いモデルを入手し撮影したら、このコラムで紹介しよう。 今回のトリプルクロスの尾ビレの伸長具合を見ると、マハチャイエンシスの血筋と言うよりも、この尾ビレの伸長するギターの血筋の方に近く感じられる。 ただし、これは自分の推測であり、実際に作出したブリーダーに交配の情報を聞いたものではない。 なぜか、このクロス系に関しては、交配の方法を教えたくないのか、あまり正しい情報が得られないので困ってしまう。
このスペードテールのトリプルクロスは、スティクトスの血が入っているのは間違いないだろう。 それは尾ビレのスポット模様と尻ビレのスポット模様を見れば明らかである。
スティクトスを交配しないと、あの特徴的な尻ビレのスポット模様は現れないのである。 ただし、尾ビレのスポット模様には、個体差があるようだ。
今回、自分が撮影用のモデルに選んだ2個体では、スポットの入り方に大きな差がある。 1匹は尾ビレ全体にスポット模様が入るが、もう1匹は尾ビレ基部に僅かにスポットが入るのみである。 一般的に見ると、尾ビレのスポット模様は、ラウンドテールの系統同様に、尾ビレ全体に入る方が美しいと思われる。 今回はブルーの個体のみ紹介したが、オスの色彩に関しては、オリジナルのトリプルクロス同様に、ブルーとグリーンがいる。
メスもオス同様に、ブルーとグリーンの個体が見られる。
このトリプルクロス、最初に作出されてからもう3年ほどになる。 同じ形質が出現する様に固定してきたブリーダーもいるようだし、さらに色彩を美しく磨いているブリーダーもいるようだ。
さらに新しい血を導入しているブリーダーもいる事だろう。 詳しくは、また色々調査してみるが、今回の魚のような改良はもちろん有りである。 タイのベタ・シーンは、いつもこちらの想像を超えた動きがあり目が離せない。