今年に入ってから、タイのベタ・シーンはニモベタ一色に染まっていると言ってもよいだろう。 3月にタイに来た際は、珍しさもあって非常に目を引いたが、5月頃にはやや食傷気味になって来た。 チャトチャックのベタ専門店の店先は、どこもニモやキャンディばかり並んでいるという状態になっている。 商売である以上、旬で売れる魚を並べるのは間違いではないだろう。 お客が望むものを仕入れて売るのは、商売の王道である。
ただし、自分のような純粋なお客ではない捻くれた客は、ニモ、ニモと騒がれて来ると、違うベタが見たくなってしまう。 昔から流行りモノには乗らない捻くれた性格なのは、困ったものである。 ベタの新品種を撮影するというのは、自分の仕事なので、ニモも良い個体を見つけると義務感で撮影してきた。
最近では、ニモベタも2ヶ月前の半額以下に値段も落ち着いて来た。比較的気軽にモデルを入手出来るようになったのは嬉しい限りである。 日本で雑誌で紹介された影響もあり、ニモベタの人気は高まっているようだ。
3月頃の価格では、一般への普及は不可能であったが、6月に入ってからの値段は、日本でも無理な価格にならない程度に落ち着いて来た。 さらに数ヶ月すれば、まだ値段は下がると思うので、そうなった際に日本でもコイベタのようなブームが来るであろう。 さて、ニモベタに関しての前振りが長くなってしまったが、今回のコラムのテーマはコイベタ・フルムーンである。
ある時、知り合いのベタ・ファームに出かけた際に、これはまだ撮影していないでしょう!と渡されたのが、コイベタのフルムーンであった。 ここのファームとは良い関係を築いており、いつもモデルの魚を調達するのに使わせて頂いている。 それだけに、自分が撮影済みの個体も把握しているので、未撮影の個体や品種をいつも勧めてくれるのである。 ニモベタに飽きていた身には、今回のコイベタ・フルムーンは非常に新鮮に感じられた。 普通にいそうで、まだいなかったのがこの魚である。
コイベタのハーフムーンが出回る様になって随分と経つが、誰もこれをダブルテールにしようと考えていなかったようだ。 それか、もしかすると途中で挫折してしまったか、今の市場では競争力がないと思ってやめてしまったのかもしれない。
コイベタのプラカットのダブルテールは、コイベタの人気全盛の際にすでに世に出ていたのを確認しているし、このコラムでも紹介している。 ベタをよく知らない人のために解説しておくと、ハーフムーンのダブルテールの事を、全体のフォルムがハーフムーン(半月)に対し満月に見える事から、フルムーンと呼ぶのである。
フルムーンは背ビレが大きい事から、ハーフムーンよりも見ごたえがある個体も多い。 今回のコイベタ・フルムーンは、やっと出荷できるようになった生後3ヶ月ちょっとの個体なので、ちょっとボリューム感には欠けるが、若々しい分溌剌としていて、良くフレアリングも行う。 あと数ヶ月すれば、全体のボリューム感も出て素晴らしい魚になることだろう。
人気絶頂のニモベタの陰に隠れてしまって、あまり注目される事がなさそうなので、まだ若い個体なのだが、急遽ここで紹介する事にした。 価格的にも手頃だし、ぜひ日本でも普及して欲しい新品種と言えるだろう。 流行だけを追いかけるブリーダーだけではないのが、タイのベタ業界の凄さでもあるのだ。 あれこれ語るよりも、実物を以ていただいた方が話が早いので、コイベタ・フルムーンをたっぷりとお見せしたい。
ここ2ヶ月ニモベタに食傷気味の自分には、新たな気分で撮影する事ができた。 3月にタイに来て、約3ヶ月タイのベタシーンを見ているが、人気のニモやキャンディー、ギャラクシーなどにも、値段だけでなく魚の質に多少の変化が見える様になって来ている。 残念な事に6月末には帰国する予定で、次にタイに来るのは9月末になってしまうだろう。 その際には、タイのベタシーンはどの様に変化しているだろうか? 楽しみである。